神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「えーと、それじゃあルディシア君…」

質問役は、再びシルナに戻った。

おいおい、シルナで大丈夫なのか?

「一応聞いておくけど…その、隙を突いてここを脱出してやろう、とか考えてる…?」

…何を聞いてんだか。

心配なのは分かるけど、真正面から「脱走する気がありますか?」って聞いて、イエスと答える奴がいるのか。

しかし、ナジュが目の前にいるこの状況では、なかなか有益な質問だ。

「脱走」という言葉を聞いて、ルディシアの心の中がどういう反応をするか。

それが分かれば、ルディシアが本気で脱走するつもりなのか、そうじゃないのか、判別出来るというものだ。

…すると。

ルディシアは胡散臭そうな顔をして、こう答えた。

「何それ…?脱走するつもりだって言ったら、地下牢に移すんでしょ?」

「あ、いや…。聞いてみただけなんだけど…」

「別に心配しなくても、もう何もしないよ」

…とのこと。

口ではそう言ってるが、内心はどうなんだろうな…?

ナジュをちらりを見ると、ナジュは黙ってルディシアを見つめていた。

…成程。

どうやらルディシアは、嘘をついている訳ではないらしい。

つまり、本気で脱走するつもりはないってことか…。

安心した。

「それに、今は日が昇ってるし…。何も出来ないよ」

…何?

「日が昇ってるから何だって?」

「太陽が昇ってる間は、死体の動きが鈍いんだよ。夜にならないと」

そうなのか。それは初めて知った。

ネクロマンサーの明確な弱点じゃないか。

そういえば、校舎に幽霊が現れたって噂が立っていたのも、夜だったな。

つまりネクロマンサーは、夜の時間にこそ真価を発揮出来るということか…。

令月やすぐりと一緒だな。

「そうなんだ…。昼間でも扱えないことはない?」

「扱えないことはないけど…。動きが鈍いよ。…ほら」

ルディシアは指先をガリッ、と噛み。

血の一滴が床に垂れると同時に、ボコッ、と死者の腕が生えた。

びびった。

強い腐敗臭と共に現れた死体は、まるで生まれたての子鹿のようにフラフラと、歪な動きをしていた。

…改めて目の前で見ると、不気味以外の何者でもないな。

「…おぉぉぉ…うぉぉ…」

すげー唸ってるし。

めちゃくちゃリアルなゾンビ映画観てる気分。

「昼間の間は、これ以上動かせない」

死体は床に這いつくばるようにして、ピクピクと痙攣しているだけ。

本人曰く、これ以上は動かせないらしい。

これはこれで不気味だから、相手をびびらせるには充分かもな。

見てみろ。シルナなんか超びびってる。

シルナはビビリだからな。

平然としているのは、イレースとナジュくらいだ。

ナジュが異議を唱えないってことは、昼間の間は死体の動きが鈍い、というネクロマンサーの弱点は嘘じゃないのだろう。

自ら自分の弱みを口にするとは…。こちらに協力的な意志があると判断して良いかもしれない。

ここは、もっと責めるべきだな。

「お前、他にも弱点があるんじゃないのか?洗いざらい喋れよ」

この際だから、ネクロマンサー対策を万全にしておきたい。

今のところ分かってるのは、聖水に弱いってことと、日光にも弱いってことだな。

他にもあるんじゃないのか。弱点。