…ナツキ様の去った部屋の中で。

「…もぐもぐ」

「…食うなよ…」

お菓子に罪はないとばかりに、シルナはテーブルの上のお菓子を摘んでいた。

折角なら、食べておかなきゃ損ってか?

そりゃそうかもしれないけど、でもそれは現実逃避だぞ。

「…どうする?シルナ…」

「…どうするって言われても…。…どうしようもないよね」

「…そうだな…」

再考の余地はないってくらいに、お互い衝突して交渉決裂してしまった訳だし。

むしろ、帰り道の安全を保証してくれただけで、ナツキ様としてはだいぶ譲歩してくれてると思うぞ。

でも、何回考えたって、あの場でナツキ様の手を取るなんて有り得なかった。

ルーデュニア聖王国に帰って、皆に意見を求めたって、答えは変わらなかっただろう。

いずれにしても、ナツキ様とは対立する運命にあったのだ。

…だとしたら、もうウジウジしたって仕方ないな。

「ナツキ様の気が変わらないうちに、俺達もさっさと帰るぞ、シルナ」

やっぱり帰り道を強襲しよう、なんて心変わりされたら、俺達の命が危うい。

「ちょ、ちょっと待って羽久。あれは珍しいお菓子なんだよ。ブリガデイロっていう異国の、」

「良いから、早くしろ!」

もし帰り道で襲われたら、お菓子なんて二度と食べられなくなるんだぞ。

それが嫌なら、帰り道が保証されているうちに早く帰るぞ。

俺はシルナの首根っこを掴んで、急いでホテルを後にした。