神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

聖魔騎士団、魔導部隊隊舎。

ネクロマンサー、ルディシア・ウルリーケは、その一室に囚われていた。




…いや、囚われていた…という言い方は語弊があるな。

閉じ込めているとは名ばかりで、部屋の鍵は内側から開けられる仕様。

窓の鍵も好きに開けられるし、鉄格子も嵌っていない。

何せここは、魔導部隊に客が来たときに案内する、客間の一室なのだから。

人を閉じ込める為の場所ではない。

虜囚のはずのルディシアが、これじゃあお客様待遇である。

しかし、そんなことだろうと思った。

あのシュニィが、例え虜囚と言えども、無抵抗の人間を鉄格子の中に閉じ込めるはずがない。

精々、部屋の前に一人、お目付け役の魔導師を立てているだけだった。

そして、そのお目付け役というのが。

「…よぉ、お前らやっと来たのか」

「…ジュリス…」

聖魔騎士団魔導部隊大隊長の一人、ジュリス・レティーナだった。

成程。

ジュリスが部屋の前で見張ってんなら、確かに部屋に鍵をかける必要はないかもな。

ジュリスにかかったら、死体を操るネクロマンサーと言えども、簡単に手出しは出来まい。

「そろそろ来る頃だと思ってたよ」

と、ジュリス。

「悪いな…。シュニィの許可は取ってある。中に入れてくれないか?」

「あぁ、良いぜ。俺も門番役はうんざりしてたところなんだ」

だろうな。

「ったく、シュニィの奴俺に見張りを頼みやがって…。こうして俺が目を離してる間に、ベリクリーデがまた何か悪さしてないか、気が気じゃな、」

と、天を仰ぐようにしてジュリスが言いかけた。

丁度そのとき。

青ざめた顔をした、魔導隊士の一人が駆けてきた。

「じゅ、ジュリス隊長!大変です。ベリクリーデ隊長が…」

「ほらな!そろそろ来る頃だと思ってたぜ」

本当、ジャストタイミングだったな。

噂をすれば…という奴かもしれない。

「今度は何をしたんだ?いや、何をしようとしてるんだ?あのアホは」

「そ、それがその…野生の猫を追い回していて…」

!?

「何がやりたいんだ…?」

「猫のソーセージを作るんだと言って…!」

猫のソーセージって何だよ?

猫を掻っ捌いて、自家製ソーセージにするつもりか。

ベリクリーデ、ご乱心。

「あの馬鹿…!何考えてんだ?動物愛護団体的なところを怒らせるようなことはするなって、何回言ったら分かるんだ…!?」

前科があるのか?

「今は何とか猫も逃げていますが、いつ捕まるか分かりません。すぐに助けてください…!」

「よし、分かったすぐに行く。…お前ら、ルディシアと会うつもりなら、気を引き締めて臨めよ。…おかしなことはしないと思うが」

ジュリスはくるりとこちらを向いて、そう言った。

分かってるよ。

「こっちは良いから、ベリクリーデのところに行ってやれよ」

「あぁ。…ったくあの馬鹿は…!」

悪態をつきながら、ジュリスはベリクリーデのもとにすっ飛んでいった。

…苦労してんなぁ、ジュリス…。