…翌日。

俺は、カーテンを開けっ放しの窓から差し込む朝の光で、目を覚ました。

見覚えのない天井が目に入って、俺はぼんやりとした頭で考えた。
 
…ええっと。

ここ、何処なんだっけ…。

…あ、そうだ。

むくっと起き上がって、俺は周囲をきょろきょろと確認した。

…何もない。

驚くほど何もないぞ。

昨夜寝る前に餅菓子を食べたが、身体に不調はない。

むしろ、一晩経って船酔いが治って、身体の調子は昨日より良くなっているくらいだ。

寝込みを襲われるかと警戒していたんだが…そういうこともなかったようだな。

お陰で、間抜けにもぐっすり眠ってしまっていたようだ。

警戒していたつもりなのに、俺も船旅に疲れていたんだろうか。

…そうだ、シルナは。

「おい、シルナ…」

シルナの方は大丈夫だろうかと、俺は隣のベッドの方を向いた。

すると。

「うーん、むにゃむにゃ…。うふふ…チョコの海だ〜…」

「…」

「見て、チョコの船と…ほら、チョコのお魚が泳いでるよ。あっちは…チョコのなるヤシの木が…」

腹の立つニヤケ面で、頭の悪そうな寝言を呟いていた。

…どういう夢を見ているのか、寝言で大体察しがつくのがキモい。

俺はおもむろに、手元にあった枕を一つ手に取り。

思いっきり、シルナに向かってぶん投げてやった。

「いだっ!」

おはよう。

「…起きたか?」

「ふぇぇ…?」

目を覚ましたシルナが、もぞもぞと毛布から出て起き上がった。

「…何だろう。今、凄く良い夢を見てた気がするんだけど…。凄く乱暴に起こされた気がするよ」

「そうか」

チョコの海に溺れてる夢を見てたらしいぞ。

まぁ、教えてはやらんけどな。

「それより、さっさと支度するぞ。今日はいよいよナツキ様との面会だ」

「あ、そうか…。…朝ご飯、甘いものが食べられると良いなぁ」

観光しに来たんじゃないんだぞ、全く。

一晩経って何事もなかったもんだから、既にすっかり油断している。

…かく言う俺も、かなり油断してるけどな。

今日はナツキ様に会う…予定なのだから、改めて気を引き締めないとな。

果たして、鬼が出るやら蛇が出るやら…。