アーリヤット皇国大使館から使者が来た、と聞いたとき。

俺が真っ先に思い浮かべたのは、令月達のことだった。

「えっ…。ま、まさか…あいつらの不法入国がバレたのか…!?」

てっきり、令月達の侵入がナツキ様にバレていて。

一週間経って、改めて罪を咎められようとしてるんじゃないかと。

「わ、分かんない…」

これには、シルナも顔を真っ青にしてびびっていた。

アーリヤット皇国、それもナツキ様からの書簡なんて、恐怖しか感じないぞ。

「フユリ様にも内密に、って言われて…。ま、まさか本当に令月君達のスパイがバレて…?」

もしそうだとしたら、両国の関係は泥沼だぞ。

ただでさえ、フユリ様とナツキ様の仲は険悪なものになっている。

あれからフユリ様は、再三、何度もナツキ様に交渉と話し合いを求めて請願している。
 
しかし今のところ、ナツキ様がフユリ様の要請に応える様子はない。

何度頼んでも、無視されている状態だ。

フユリ様は、諦めるつもりはないと言っていたが…。

一週間経っても、返事どころかスルーされている状況。

ナツキ様には、話し合うつもりなんて欠片もないのだろう。

あくまでフユリ様は、話し合いによる平和的な解決法を探っていたが。
 
こうなった以上、フユリ様の望む話し合いによる解決は、今のところ絶望的だ。

俺とシルナも気を揉んでいた、丁度そのとき。

こうして、アーリヤット皇国大使館から、ナツキ様の書簡が届けられた。
 
何で学院に?

フユリ様宛じゃないのか。

「ちょ、ちょっと…見せてくれ」

「う、うん…」

俺はシルナから引ったくるようにして、白い封筒を受け取った。

封筒には、アーリヤット皇国の国旗を象った、王族のみが使用出来る、王家の花紋のスタンプが押されていた。

偽造ではない。本物のように見える。

ってことは…間違いなく、これはナツキ様からの書簡…。

「…これ、シルナ宛なのか?フユリ様宛じゃなくて…?」

「わ、分かんないけど…。さすがに、国王から託された手紙の届け先を、大使館の人が間違える…とは思えないよ」

そうだよな。

そんな間抜けな凡ミス、シルナじゃあるまいに、責任ある大使館の職員が犯すとは思えない。

シルナじゃあるまいに。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど、今はそれどころじゃないや…」

あぁ、その通りだ。

これがもし本当に、ナツキ様からの手紙なのだとしたら。

一大事だぞ。これは。

「…イレースとか天音達も呼んでくるか?」

あいつら、今授業中なんだけど。

さすがに緊急事態だから、授業は自習にして、一緒に手紙の封を開けるべきか?

しかし…。

「…とりあえず…私達だけで開けない?差出人が差出人だし…。あんまり広めない方が良いと思う」

と、シルナはイレース達を巻き込むことを避けた。

そうか。…そうだな。

もしあいつらも知る必要がある情報ならなら、後で共有すれば良い。

先に、俺達だけで読ませてもらうぞ。