不味い。非常に不味い状況だ。

「…どうする?今からでも…連れ戻しに行くか?」

あいつらが、ナツキ様を手に掛ける…その前に。

何とか…アーリヤット皇国まで追いかけていって、無理矢理でも連れ戻すしか…。

「それは…間に合わないと思う」

…だよなぁ。

「暗殺に関しては、私達よりずっとプロなんですよ。今更追いかけていって、止める暇があるとは思えません」

イレースもこう言ってる。

「成り行きに任せるしかないって言うのか…。俺達が…令月とすぐりを止められなかったばかりに…」

フユリ様が、世界中から責められるようなことになったら。

俺ら、どう責任取れば良いんだ?

…しかし。
 
「そんなに心配しなくても、大丈夫だと思うよ」

ずっと黙っていたシルナが、苦笑気味に言った。

はぁ?

「何が大丈夫なんだよ…?」

「令月君もすぐり君も、それが分からないほど考え無しじゃないからね」

…それは。

…そうかもしれないけど。

「僕も同感です。二人は暗殺のプロなんですから、国の要人を殺したらどうなるのか、僕達よりよく知っているでしょう」

ナジュまで。

令月達のことを信頼しているのか?そりゃあ、俺も信じたいけど…。

「でも…暗殺しに行ったんじゃないなら、何しに行ったんだ?」

「さぁ…。さしづめ、敵情視察ってところですかね?」

視察?偵察?

ナツキ様の腹を探りに行ったのか?

そうだったら良いなと思うけど、本当にそれだけで帰ってきてくれるのだろうか。

不安しかない。

「大丈夫だよ。きっと、ちゃんと帰ってきてくれるはずだよ」

シルナはそう言うけども…。

万が一のことが起きたら…と、俺はどうしても心配になってしまう。

あいつらなら捕まらないだろう、というのも、俺達の楽観視なのでは?

アーリヤット皇国には『HOME』という、手練れ揃いの皇王直属軍もいる訳で。

そいつらに、令月とすぐりが捕まるようなことになったら。

それにマシュリだって…。ナツキ様に捕まったら、絶対ただでは済まされないだろうし。

「心配性ですね、羽久さんは」

俺の心を読んで、ナジュが言った。

…お前が心配しなさ過ぎなんだよ。

「何かあったら、そのときはそのときですよ。どっしり構えていましょうよ」

「…俺も、お前のように考えられるようになりたいよ」

勿論、あいつらを信頼しているけども。

信じているが故に、不安になることもあるんだよ。

「…無事でいてくれると良いんだが」

俺達にこんな心配をかけて。

あいつら三人共、帰ってきたら覚えとけよ。マジで。