シルナがぽかんとしているのをよそに。

「よしよし、いろりちゃん。やっぱりここにいたんだね」

「可愛い〜。いろりちゃん可愛いね〜」

「今日一日、いろりちゃんに早く会いたくて我慢してたんだよ」

「私にも。私にも触らせて」

「ズルい、私が先だよ」

5人の女子生徒は、我先にと争うようにいろりの頭や背中を撫でていた。

いろりはされるがまま、大人しく身体を撫でられていた。

しかも、いろりの方も満更ではないのか。

リラックスしきった顔をして、女子生徒達からもふもふされていた。

…モテモテじゃないか。

成程、この生徒達はシルナじゃなくて、いろりを探しに来たんだな。

「…い…いろりちゃん目当て…?」

生徒達はシルナを完全スルーして、いろりをもふもふするのに夢中。

シルナはぷるぷる震えながら、そんな様子を見下ろしていた。

猫に負ける学院長、シルナ。

…更に。

「あ、いろりだ」

「こんなところにいたのか。探したよ」

「いろりー、こっちこっち。猫用のチーズ買ってきたんだよ」

学院長室の扉を開けていたので、そこから通りすがりの男子生徒3人がやって来た。

彼等の来訪の目的も、聞かずとも分かる。

いろりを前に緩みきった表情で、しかも一人はいろりの為に、猫用のチーズまで持参している。

…皆、いろり目当て。

いろりはさながら、アイドルか芸能人の握手会のように。

順番に、生徒達に身体をもふもふさせていた。

すげー人気者。

「あ、いろりだー」

「いろりちゃーん。遊ぼー」

更に、通りすがりの別の生徒も寄ってくる寄ってくる。

本当に芸能人みたいだ。

「君っ…君達、あの…。チョコ、チョコブラウニーがあ、」

「いろり、こっちおいで」

「いろりちゃん」

「よしよし、いろり。良い子だな〜」

生徒達、シルナを完全スルー。

「…ブラウニー…」

「…諦めろ、シルナ」

俺はシルナの肩にポン、と手を置いた。

時代は、馬鹿の一つ覚えみたいにチョコばっかくれる学院長でも、自称イケメンカリスマ教師でもない。

新しい学院のニュースター、いろりなんだよ。

世代交代って奴だな。

「うぅ、羽久…。私の生徒が。私の生徒なのに。いろりちゃんに取られた〜」

半泣きになるな。

あと、生徒はお前のものではないからな。

まだいろりは、学院に来たばかり。

しばらくの間は、この通り人気者だろうな。