神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

成程。それでこの人、こんなドヤ顔で帰ってきたんだね。

早いところ阻止しないと不味いね。

「どーする?…やっぱり殺した方が手っ取り早い?」

『八千歳』は小声で、僕に意見を求めてきた。

うん。それは僕も思ったよ。

本当に、こんな条約が結ばれたら困るもんね。

そうなる前に、いっそ皇王を殺してしまえば…と思ってしまうのは、僕達の発想が暗殺者のそれだからだろうか。

でも…。

「…今殺したら、条約の締結は避けられるかもしれないけど、その代わりルーデュニア聖王国が世界中から疑われることになるよ」

風呂敷の中から、マシュリが警告してきた。

そうだったっけ。

じゃあ、やめた方が良いのか。

マシュリが一緒に来てて良かったね。

僕と『八千歳』だけだったら、今頃ナツキ皇王は、僕のお手製の毒でお陀仏だったと思うよ。

「分かったよ、全く…。殺したら殺したで、その後のことはそのとき考えれば良いと思うけどなー」

僕もそう思うよ、『八千歳』。

やっぱり僕達は、暗殺者の発想なのかもね。

殺すことで最悪を避けられるなら、その後のことはそのとき考えれば良いと思うけど。

そうじゃないんだね。普通の人の考えでは。

…まぁ良いや。

「それよりも…ルーデュニア聖王国は、今どうなってる?」

風呂敷の中から、マシュリが尋ねた。

そうだね。それも気になるね。

果たしてアーリヤット皇国の民は、ルーデュニア聖王国のことをどのように報じているのか。

ルーデュニアの新聞では、今回の件を、謂われなくアーリヤット皇国に言いがかりをつけられた、被害者として報じていた。

一方、アーリヤット皇国はルーデュニア聖王国のことを…。

「…あー、あるある…。…うわー。言いたい放題だよ、この人達」

「こっちも…。ルーデュニア聖王国のこと、『嘘つき国家』だって」

「どっちが嘘つきだよ」

本当にね。

アーリヤット皇国の国民は、本当のことを知らないから。

いくらでも、ルーデュニア聖王国を悪者扱いして罵るんだろうけど…。

でも、まさか『嘘つき国家』とは。
 
そういう言葉は、鏡を見てから言うべきだな。

「予想はしてたけど…。散々言われてるねー」
 
「うん。…ルーデュニアを擁護する記事は、一つもないね」

どの新聞を見ても、ルーデュニア聖王国の記述がある記事は、どれもルーデュニア批判の内容ばかり。

せめて、もうちょっと第三者的な視点で書けば良いのに。

こんな風に書かれてたら、真実を知らないアーリヤット皇国の民は、ルーデュニア聖王国をバッシングして当然だ。

多分皇王本人が、こういう記事を書くように指示してるんだろうな。