神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「ふーん…。ナツキ様ってこんな顔なんだー」

『八千歳』は、『アーリヤットタイムス』の第一面をまじまじと見つめながら、そう言った。

一見、悪いことは何も考えなさそうな顔だね。

人畜無害って言うか…。

でも、そういう人に限って性根は大悪党だったりするんだよ。

だからこの人も、そういうタイプなんだろうね。

「妹とはあんまり似てないね」

「だって腹違いでしょ?」

あ、そうか…。それでか。

二人並んで見せても、兄妹だということは分からないかもね。

まぁ皇王にとっては、憎き妹に似ていると言われても嬉しくないだろうけど。

「今日の一面は、どの新聞社もそればっかりだね」

こっちの『アーリヤット・ジャーナル新聞』も、『アーリヤット全国通信』も、一面はナツキ皇王の写真がでかでかと写っており。

彼の無事の帰還を祝い、称える内容ばかりである。

内容も、いかにも彼がサミットの主導者であったかのような文章ばかり。

我らが皇王が、サミットで素晴らしい働きをしてみせた…云々。

随分あくどいことばっかりやってたけど、これが素晴らしい働きなの?

「あの変な条約は、どうなったのかな?」

確かこの人、魔導師を国家で所有しましょう、みたいな条約を結ばせようとしてたんだよね?

あれはどうなったのか。

サミット閉幕までに、各国の賛同を得られたのだろうか?

ルーデュニアに帰ったら、国家所有の魔導師として国の為に働け、と命令されたりして。

しかし…。 

「いや…。…どの新聞を見ても、条約が締結したとは書いてないねー」

「じゃ、駄目だったのかな?」

「あ、ほら。ちょこっと書いてあるよ、ここに。条約の正式な締結は持ち越し、って」

なんだ、やっぱり駄目だったんだ。

こんなドヤ顔で帰還したからには、条約を結んで帰ってきたのかと思ったら。

そうでもなかったらしい。

それなのに、このドヤ顔なの?

「持ち越しか…。首の皮一枚繫がったね」

その記事も、もう少し大きく掲載してくれて良かったんだよ。

少しでも国にとって不利な情報は、あまり大々的に報じるつもりはないようだね。

何処の国も、そんなものか。
 
とはいえ、これがルーデュニア聖王国なら、もう少し起きた事実を客観的に記事にしている…と、思いたい。

そう思うのは、多分僕の贔屓目なんだろうね。 

何にせよ、例の条約が締結されなくて、本当に良かった。 

「でも、条約の草案は取り下げられてないし。各国で前向きに検討して、年内の正式な締結を目指してるって」

…そう書いてあるね。
 
「…つまり、本当に首の皮一枚繫がっただけなんだね」

「うん」

かろうじて、今回のサミットでの条約締結を回避出来たってだけで。

条約そのものは、棄却されていない。

それどころか、前向きに検討だって。それも年内に。

つまり、このまま手をこまねいていたら、遠からず条約締結されてしまう訳だ。

余裕ないね。