神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

皮肉なものだよね。

それぞれの国によって、掲げる正義は違うということか。 

「ただでさえ、僕達のせいでルーデュニアはジャマ王国と仲が悪いのに。今度はアーリヤット皇国まで仲違いしたら…」

「最悪、敵の敵は味方理論で、ジャマ王国とアーリヤット皇国が手を組んで、ルーデュニア聖王国に攻め込む…なんてことになったら、目も当てられないからねー」

それが、僕と『八千歳』が一番恐れてること。

学院長がそこまで考えてるのかは分からないけど、僕達は心配している。
 
ジャマ王国…『アメノミコト』は間違いなく、今でも、裏切った僕達のことを忘れてないだろうし。

自分達のメンツを台無しにしたルーデュニア聖王国に、復讐する機会を…今も伺っているに違いない。

もしかして今は、絶好のチャンスなのでは?

そうならないように、僕達はこうして、リンゴまみれになりながらアーリヤット皇国に向かってるんだよ。

「どーなの?そのへん。アーリヤット皇王は、ジャマ王国のこと何か言ってた?」

『八千歳』がマシュリに尋ねた。

「ジャマ王国か…。…少なくとも僕がアーリヤット皇国にいたときは、ジャマ王国の名前が出るのを聞いたことはないね」

へぇ。

薄汚い暗殺者集団を擁する国と、手を組むつもりはないのかな?

そうだと有り難いね。

「アーリヤット皇王はプライドが高いから、もしジャマ王国から共闘を持ちかけられたとしても、簡単には首を縦に振らないと思う」

成程。

『アメノミコト』の方も、プライドの塊だから。

お互いのプライドの高さが衝突し合って、共闘どころじゃない…。

…そうなることを、心から願ってるよ。

僕達も、今の『アメノミコト』がどうなってるのか分からないから、何とも言えないね。

「いずれにしても、アーリヤット皇王が何を考えてるのか、確かめてみないことには…」

「そーだね。その為に、遠路遥々、ニンジンの収穫を諦めてまでアーリヤット皇国に向かってるんだし」

手ぶらでは帰れないね。

…やっぱり、今のうちに潜入の支度はきちんとしておかないと。

「道案内、宜しく頼むよ」

「分かってるよ。…それまでに、鼻が曲がりそうだけど」

気の毒だね。

マシュリの鼻が馬鹿になってしまう前に、せめて顔を覆う手拭いでも作ろうかな。