神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「学院長はあの通り、甘ちゃんな性格だからね」

アーリヤット皇王が邪魔なら、さっさと始末してしまえば良いものを。

それをせず、平和的に事を解決しようとして。

その結果、こうして全部後手後手に回ってしまっている。

あの人が動けないなら、僕達が動くよ。

「拾ってもらった分の恩は返す。それだけだよ」

それに、ルーデュニア聖王国に万が一のことがあったら。

僕達のような異国人は、ルーデュニアから追い出されかねないし。

今更ジャマ王国にも『アメノミコト』にも帰れないし、帰る気もないし。 

帰ったところで、待っているのは死の制裁だけだし。 

だったら、僕達に出来ることは何でもやるよ。

「君達も、ルーデュニアの人じゃないんだよね?」

と、マシュリが尋ねた。

…何だ。僕達のこと知りたいの?

別に良いけど、面白い話じゃないよ。

まぁ、アーリヤット皇国に着くまでの暇潰しにはなるかな。  

「そうだよ。二人共ジャマ王国出身」

僕も、『八千歳』もね。

「ジャマ王国…。僕は行ったことないけど…。反魔導師国家だっけ」

ルーデュニアに比べたら、大抵どの国も反魔導師国家だけどね。

魔導師を嫌ってる癖に、暗殺者には力魔法や毒魔法や、色んな魔法を仕込んでるんだから。

魔導師が嫌いと言うか、そもそも魔導師のことを便利な道具としか思ってないんだろう。

「元々は僕達も君みたいに、最初は学院長を暗殺する目的でルーデュニアに来たんだよ」

懐かしいね。

僕が「任務」を仕損じたのは、あれが最初で最後だったな。

「僕と同じように、シルナ・エインリーに説得されて寝返ったんだね」

「まぁ、そんなところ」

そうなるまでに、語り尽くせないあれこれがたくさんあったけどね。

あまり思い出したくないし…。『八千歳』にとっては、特に。

そこまで詳しくは話さないよ。

しかし、詳しく話す必要はなかった。

「大体の事情は察しがつくよ。…あのシルナ・エインリー達のことだ。自分を殺しに来た暗殺者にだって、当たり前のように手を差し伸べたんだろうね」

そう。よく分かってるね。

その通りだよ。

「でもそのせいで、元々仲の良くなかったルーデュニア聖王国とジャマ王国は、余計に拗れた仲になっちゃってねー」

と、『八千歳』が説明した。

今回のアーリヤット皇国との諍いは、あのときと…僕達のせいでジャマ王国と、揉めたときと似ている。

ルーデュニアがジャマ王国を公然と批難して、悪者扱いしたように。

今度はルーデュニアが、アーリヤット皇国に責められているという状況なのだから。