神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

…まぁ良い。気にせず進めよう。

「ヤバいですね、これ…。もう完全に…ずっと向こうのターン!みたいな…」

…と、同じく新聞を読みながらナジュが言った。

ずっとナツキ様のターン…。

全くだよ。そうとしか言いようがない。

「人質なんて嘘なのに…。何で誰も信じてくれないの…?」

「真実なんてどうでも良いんです。このような嫌疑をかけられること自体が問題なんですよ。火のないところに煙は立たないんですから」

天音の呟きに、イレースがビシッと答えた。

相変わらず容赦ない物言いだが、今回ばかりは言い返す言葉がない。

各国も、本気でナツキ様の言い分を信じている訳ではないだろう。

外交大使を人質にした云々なんて、ナツキ様の口から出任せだ。

二人を人質にしたって、ルーデュニアには何もメリットがないことくらい、ちょっと考えれば分かる。

でも、そのような不名誉な嫌疑をかけられ、世界中に疑われている。

それこそが問題なのだ。

ルーデュニア聖王国の名前に泥を塗るには、絶好の口実だろう?

「それだけじゃないよ…。この…非常識な条約だって」

と、天音。

「本気でこんなもの…条約、成立させるつもりなのかな…?」

「…少なくとも、ナツキ様は本気のようだな」

魔導師が好きじゃないってことは知ってたが、ここまでとは。

いや、それとも、この条約も口実なのだろうか?

ルーデュニア聖王国を押し退けて、自分達が世界の宗主国になれるなら、手段なんてどうでも良いのだろうか。

それに巻き込まれる、俺達魔導師の身にもなってくれ。

冗談じゃないぞ。

国家所有にされ、他所の国の為に魔法を使うなんて。

ナジュなんか、超便利な道具扱いにされて、世界中から引っ張りだこだろうな。

「人気者ですからね、僕…。モテる男は辛いですよ」

そんな冗談も言っていられなくなるんだって、本当に分かってんだろうな?

「一応…代理で出席したルーデュニアの外交官は、かろうじて反対してるみたいだね」

新聞を読みながら、シルナが言った。

そのようだな。

お陰で、何とか今日に至るまで、条約の締結を阻止している。

だが…それもいつまで持つか。

止める者がいないのを良いことに、ナツキ様は今も、言葉巧みに諸外国の代表を説き伏せているんだろうから。

「サミットの日程は…あと三日…」

「どうやら、我らが女王はサミット終了までに戻ってくることは叶わないようですね」

そうだな。

もとより、ミナミノ共和国もそのつもりなんだろうし。

サミットが閉幕されるまでは、決してフユリ様を国内から出さないだろう。

ナツキ様と、そういう約束してるんだろうから。

その約束で、ナツキ様からいくらもらったんだ?畜生め。

「シルナ…。何か出来ることはないのか?俺達に…」

俺は、シルナにそう尋ねた。

サミットが閉幕するまで、あと三日。

俺達じゃフユリ様の代わりにはなれない。それは分かってる。

でも、せめて何か…。俺達の無実を証明する為に、出来ることはないのか。