神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「…どうしても返さないと言うのであれば、首相閣下に会わせてください。私から、閣下に直談判します」

すぐにでも私をルーデュニア聖王国に返すよう、私から直接交渉するつもりだ。

もう、何度も同じことを頼んでいる。

しかし…。

「は、はい。伝えておきます。伝えておきますから…」

「昨日も一昨日も、その前もそうおっしゃいましたよね?それでも、未だに会わせてもらっていません」

ミナミノ共和国に到着した翌日、ほんの僅かな時間面会して、挨拶を交わした程度で。

お互い、座って話もしていないのだ。

この国に来て何日も経つというのに。

「そもそも首相閣下は、ルーデュニアとの国交改善の話し合いの為に、私をミナミノ共和国にご招待くださったのでしょう?それなのに、一度として話し合いの席が用意されていないのはどういうことですか?」

「い、いえ…その、そう言われましても…」

「もう我慢なりません。話し合いもない、それどころか国にも返してもらえないなど…。貴国の態度は、ルーデュニア聖王国に敵意ありと判断せざるを得ません」

脅すような口調で言うと、警備員の顔がさっと青ざめた。

「じ、自分はその…ただ命じられて、フユリ女王陛下をお守りしているだけですから。首相閣下のご意思は、自分には…」

「…」

返答に困ると、すぐにこれだ。

自分には関係ないから、自分に言われても困る、と。

「敵意があるなんて、そんな…。首相閣下は今、ご多忙の身なんです。ご存知の通り、国内でテロが起きたばかりですからね」

「ですが、それは…」

「国内の治安が落ち着くまで、もう少し辛抱なさってください。大丈夫ですよ、あと少しですから」

何を根拠に、あと少しだと言えるのか。

もう何日も前から、ずっと同じ不毛なやり取りを繰り返しているのに。

「もう少し」と「あと少し」と言っている間に、あっという間に半年も経ってしまいそうだ。

「ですから…私が面会を希望していると、首相閣下に…」

「分かりました。伝えます、伝えておきますから。どうか落ち着いて、部屋にお戻りください」

「…っ…」

どうして落ち着いてなどいられようか。祖国が危機に瀕しているのに。

私は半ば無理矢理、部屋の中に押し返された。

部屋の外で、警備員がうんざりしたような溜め息を溢しているのが聞こえた。

…とてもじゃないが、私の話を真剣に受け止めてくれているとは思えない。

首相に私の意志を伝えると約束したものの、あの様子だと、本当に伝えてもらえるのか分からない。

伝えたところで…首相が私に会う気になるだろうか?

「…私には、このようなことをしている暇はないというのに…」

今こうしている間にも、どんどん兄の術中に嵌まり、取り返しのつかない事態に発展しようとしている。

それでも私は、このホテルの一室で喚いている以外、何も出来ないのだ。

「皆さん…。…シルナ学院長…」

私の代わりに、何とかルーデュニア聖王国を救う為に奔走してくれているであろう人々の顔を思い出した。

彼らは今…不甲斐ない私の代わりに、何をしているのでしょうか…?