神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「…まさか、そんなことが…」

侍従が届けてくれた新聞を読んで、私は身体を震わせた。

予想はしていた。このような強引な手段を使ってまで、私を遠ざけておこうとしたからには。

きっと、かなり大胆な計画を立てているんだろうと。

でも、まさかこれほどまでとは。

新聞には、それほど詳しくは載っていなかった。

ルーデュニア聖王国は現在、サミットに参加中の兄、アーリヤット皇王から公然と批難を受けている。

その口実は…アーリヤット皇国から送られてきた外交大使を、人質として監禁している、というもの。

先日、イーニシュフェルト魔導学院のシルナ・エインリー学院長から聞かされた、あのお二人…。

ネクロマンサーのルディシア・ウルリーケさんと、獣人のマシュリ・カティアさん…。

元々は、アーリヤット皇国皇王直属軍、通称『HOME』から送られてきた刺客だったそうだ。

しかし彼らは、兄ナツキに命じられてルーデュニア聖王国に来ただけで。

本気でシルナ学院長の命を狙ってはいなかった。

シルナ学院長から直々に、お二人をルーデュニア聖王国に迎え入れて欲しいと頼まれ。

私は正式に、ルディシアさんとマシュリさんをルーデュニア聖王国の民として迎えることを許可した。

お二人はもう、私の守るべきルーデュニアの民だ。

その二人を…私が人質扱いしていると?

馬鹿なことを。

先に、刺客としてお二人を送りつけてきたのは誰だと思っているのか。

部下に裏切られたのを見るや、勝手に外交大使だと偽って、ルーデュニア聖王国を悪者扱いにするとは。

おまけに、兄がサミットの最中で諸外国に提示した、新しい条約。

世界魔導師保護条約…だったか。

兄は本気で、このような条約を締結するつもりなんだろうか。

魔導師を国家の所有物にして、お金儲けの道具にするような真似を、本気でするつもりなのだろうか。

兄は元々、あまり魔導師に対して好意的な人ではなかった。

だからって…魔導師を国家の所有物にするなんて、決して許されることではない。

本当は、兄にも分かっているのだろう。

この条約が、どれほど非常識で非道なものか。

だからこそ、私のいない間にこの条約を発表したのだ。

私がサミットの場にいたら、確実に反対されるから。

私が反対すれば、サミットに参加している他の親魔導師国家も、ルーデュニアに続いて条約の反対を主張するだろう。
 
でも、今は…。

根も葉もない嘘の主張で、ルーデュニア聖王国は世界の悪者にされ。

ただでさえ立場が悪くなっているところに、私の不在のせいで、ろくに反対意見を口にすることも出来ない。

…このままでは、ルーデュニア聖王国は為す術もなく。

兄が考えた、この残虐非道な条約を結ばされ、魔導師の皆さんが苦しむ結果になるだろう。

…させてなるものか、そのようなことを。

私の目の黒いうちは、決して自国の民を、便利な道具として貸し借りさせるような真似はしない。

私は立ち上がって、ホテルの部屋の外に出た。