――――――…同時刻、ミナミノ共和国首都にある、一流ホテルの一室にて。

 



「お願いします。早く私を、ルーデュニア聖王国に返してください」

ルーデュニア聖王国の女王、フユリ・スイレンその人は。

ホテルの部屋の前に陣取っている警備員に向かって、唾を飛ばしていた。

もう、同じやり取りを何度繰り返したことか。

いよいよもって、不毛極まりない言葉の応酬である。

しかし、やめる訳にはいかなかった。

今こうしている間にも、祖国が危機に襲われている。

そう思うと、いくら不毛なやり取りでも、繰り返さずにはいられなかった。
 
…兄の仕掛けた罠に、今になってようやく気がついた。

いや…おかしい、とは思っていたのだ。

これまで、ほとんど国交のなかったミナミノ共和国から、サミット直前に突然招待された。
  
この時点から、心の中に疑念があった。

でも、ミナミノ共和国の政権が交代したのは紛れもない事実。

これを機に国交を深めたいという…ミナミノ共和国の主張を、私は信じたかった。

叶うなら、ミナミノ共和国とも親善を深めたいと。

そしてゆくゆくは、ミナミノ共和国をモデルケースとして。

他のアーリヤット共栄圏の国々とも、徐々に打ち解けていきたい。

そんな仄かな期待を抱いて、遥々、船に乗ってミナミノ共和国にやって来た。

そこで、私はミナミノ共和国の…そして、兄の思惑に気がついたのだ。