神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「アーリヤット皇国は、人質にされたお二人の身柄の即時返還と、それに対するルーデュニア聖王国からの正式な謝罪、及び前述の世界魔導師保護条約の即時締結を要求しています」

「…」

改めて整理してみると、凄いな。

いかにナツキ様が大それたことを企んでいるか、よく分かる。

恐らくこの計画を実行する為に、随分下準備をしたのだろう。

なんと狡猾な真似をしてくれる。

サミットの場に、フユリ様がいてくれれば…。

このような好き勝手、絶対にさせなかっただろうに。

人質の返還と謝罪だと?

よくもまぁ、いけしゃあしゃあと。謝るべきは自分達の方だろ。

「…不味いね。このままルーデュニア聖王国が悪者扱いで、アーリヤット皇国が中心となって、その条約が結ばれてしまったら…」

…そうなったときのことなんて、考えたくもないな。

国家間で、魔導師が便利な家電製品のように貸し借りされる世界なんて…。

魔導師に対する人権侵害も甚だしい。

おまけに、これまで魔導師に対して寛容だった、ルーデュニア聖王国を始めとする親魔導師国家の数々。

これらはあっと言う間に発言権をなくし、否が応でも、反魔導師国家への方針転換を余儀なくされるだろう。

そうなったら…これまで自分の祖国で居心地良く暮らしていた、全ての魔導師が…。 

大人しく国家所有の家電製品になるか、あるいはかつてのマシュリのように…居場所を求めて放浪の旅に出なければならなくなる。

俺もそうなるかもしれない。

それは…嫌だな。

何だかんだ、俺は自分という人格が生まれたときから、ずっとルーデュニア聖王国にいたから。

シルナと共に、変遷を眺めてきた…この国に愛着がある。

ルーデュニア聖王国が世界の波に飲まれ、反魔導師国家に変貌する様は、見たくない。

…すると。

「…僕がアーリヤット皇国に帰るよ」

険しい顔で沈黙していたマシュリが、不意に口を開いたかと思うと。

とんでもないことを言い出した。

何だって?アーリヤット皇国に帰る?

「マシュリ…。お前、何言ってるんだ?」

「『人質』の僕が返還されたら、少しはルーデュニア聖王国も立場が良くなるはずだよ」

馬鹿な。

返還を要求されている人質が、自らの意志でアーリヤット皇国に帰れば。

ルーデュニア聖王国に対する、世間のバッシングも収まるだろうと?

「僕も証言するよ。人質にされていたなんて嘘だって。外交大使だったなんて嘘だって。正直に…『HOME』の軍人として派遣されたって言う」

「…」

「そうすれば、アーリヤット皇王の証言に不信感が生まれる」

…その為に、お前は戻りたくもない場所に帰るって?

冗談じゃない。そんなこと…させてたまるものか。