神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

これが目的。

ルディシアとマシュリ、二人の『HOME』の軍人をルーデュニア聖王国に送り込んだのは…。

「私もそう思います。ナツキ様は皇王直属軍『HOME』の魔導師だったルディシアさんとマシュリさんを、友好目的でルーデュニア聖王国に送った外交大使だと発表しています」

シュニィも、ジュリスに続けて言った。

ルディシアとマシュリが、外交大使?

シルナの命を狙い、死体を操ってイーニシュフェルト魔導学院に潜入した奴が。

同じく、シルナの暗殺目的で入国し、更に聖魔騎士団副団長のシュニィを拉致監禁した奴が。

ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国の友好目的でやって来た、外交大使?

自分の命令で送った刺客を、外交大使と呼ぶとは。

ナツキ様の辞書には、「友好」という言葉の欄に「相手に喧嘩を売ること」って書いてあるのかもな。

全く笑えないぞ。

「当初の目的であった、学院長先生の暗殺に失敗し…ルディシアさんとマシュリさんがアーリヤット皇国に戻ってこないと知るや、我が国がお二人を拘束しているから戻ってこないのだと、そう言い張ってるんです」

「…馬鹿じゃねぇの…?」

二人がアーリヤット皇国に帰らないのは、ナツキ様に人徳がないからだよ。

それが何だ。自分の送り込んだ刺客を、勝手に外交大使ってことにして。

ルーデュニア聖王国が、大事な外交大使を不当に拘束したと言い張ってる。

面の皮が厚いにも程がある。

正直に、「送り込んだ刺客に裏切られました」って言えよ。
 
何を未練がましく、こっちが悪者みたいに言って…。

…いや、待て。

未練なのか?本当に?

さっきジュリスは言った。「初めからこれが目的だった」と。

つまり、『HOME』の軍人だったルディシアとマシュリがルーデュニア聖王国に送り込まれたのは…。 

「…お二人が暗殺任務を果たせるならそれで良し、任務を果たせずにルーデュニア聖王国に残るなら、このようにするつもりだったんでしょう」 

と、シュニィ。

どちらに転んでも自分の得になるように、計算してルディシア達を送り込んだのか。

刺客が刺客としての役割を果たすなら、それが一番だけど。

もし役割を果たせず、ナツキ様を裏切るようなことがあったとしても。

そのときは、こんな厚顔無恥な声明を、全世界に向けて公表するつもりだった。

ルーデュニア聖王国を…フユリ様を、悪者に仕立て上げる為に。

全ては、この状況を計算しての作戦。

ナツキ様は、とんでもない策士…。

…というか、単にめちゃくちゃずる賢いんだと思う。

「…やると思うよ、あの人なら」

ずっと黙っていたマシュリが、ポツリとそう溢した。

「そのくらいのことは、計算していたんだろう。…いかにもあの人の考えそうなことだ」

「…マシュリ…」

「最後の最後まで…僕達を利用するつもりなんだろうね」

…自分の部下を何だと思ってるんだ、ナツキ様は。
 
自分の役目を果たせない者は無価値。今でもそう思ってるのか?

ふざけたことを。

部下だろうが王様だろうが、同じ人間だろうが。

ましてや、こんな騙し討ちみたいな手段を使って…。

断じて、受け入れられるものではない。