神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「…」

いち早く気づいたマシュリが、ハッと顔を上げた。

「?マシュリ、どうした?」

「人が来た。匂いがする」

…人?

そういや、マシュリの嗅覚は…嗅覚に限らずだが…五感が非常に優れているんだっけ。

すると。

「…羽久さん…!シルナ学院長、大変です…!」

「えっ…クュルナ?」

学院長室に飛び込んできたのは、聖魔騎士団魔導部隊大隊長仲間であるクュルナであった。

いつも冷静な彼女が、今日は息を荒くして、顔も真っ青になっている。

これはただ事ではない。

「え、ちょ、ど…。ど、どうしたのクュルナちゃん」

自他共認めるビビリのシルナは、取り出しかけたチョコレートの箱を落っことしながら尋ねていた。

シルナの奴、最近よく、驚くと物を落とすようになったな。

歳なのかもしれない。

「それが…アーリヤット皇国の皇王陛下が…」

「…あの人がどうかした?」

俺もシルナも狼狽えていたが、マシュリと…それからイレースも冷静だった。

頭が上がらないよ。

「サミットで、何か余計なことでも言ったんですか」

と、イレースがクュルナに尋ねた。

さ、サミット…?

「はい…。ルーデュニア聖王国に対して、人質にしたルディシアさんとマシュリさんの身柄を返せ…と、諸外国の見ている前で宣言したそうです」

イレースに問いに、クュルナが答える。

凄い重要な情報を伝えてくれてるんだってことは、よく分かる。

でもごめん。全然分からない。

「えっ…え…?」

シルナも同じく、訳が分からないようで首を傾げていた。

そんな俺とシルナを、イレースがジロリと睨んだ。

「知らないんですか、あなた達。今、世界の主要国が集まってサミットが開かれてるんですよ」

「…あっ…。あの5年に一度やってる世界会議か?」

「そうです。少しは新聞を読みなさい」

済みません。

イレースに言われて、ようやく思い出した。

5年に一度、世界の主要国が一堂に会して、一般人にはよく分からないお偉い政治の話をする。

勿論、ルーデュニア聖王国も、サミット参加国のうちの一つだ。

そして…ルディシアやマシュリがいた、アーリヤット皇国も同じ。

すなわち、現在フユリ様とナツキ様は、サミット開催国にて互いに顔を合わせ、睨み合いながら会議に参加している…。

…はずなのだが。

「その偉い会議で…何でルディシアやマシュリの名前が出てくるんだ…?」

うちの猫、なんか悪いことでもしたか。

「それは…。…その、話すと長くなるんですが…」

クュルナは困ったような表情で、俺達を見渡し。

「…今、聖魔騎士団で緊急の会議を開いています。シルナ学院長、羽久さん、あなた方も参加してもらえますか」

詳しい話はそこで、ってことか?

…良いだろう。