神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

生徒にもイレースにも、マシュリにも相手にされなかったが。

かろうじて、俺だけは自分の相手をしてくれると分かって、余程嬉しかったのか。

「どれ?どれ食べる?この間秘蔵のチョコが全部消し炭になったから、また新しいの取り寄せたんだよ!」

目をきらきらさせながら、シルナは鍵付きの引き出しを開けた。

まだ真新しい引き出しの中は、チョコレートの箱がすし詰めになっていた。

どんだけ買ったんだよ。

「…」

ぎっしり詰まったチョコレートの箱を見て、イレースが眉を釣り上げていた。

シルナの凄まじい浪費の、動かぬ証拠である。

怖っ…。

しかし、頭の中までチョコたっぷりのシルナは、イレースのそんな視線にも気づかない。

「色々あるよ!こっちが甘いミルクチョコレートの詰め合わせで、こっちはもっと甘いチョコレート、こっちはもっともっと甘いチョコレート!」

甘いチョコしかねぇ。

仕方ない。シルナは無類のチョコ好きだが、カカオの味が強い、苦味のあるチョコは好きではないのだ。

砂糖とミルクたっぷりの、甘々なチョコレートが好き。

良い歳したおっさんの癖に、重度のお子様舌なんだよ。

コーヒーとか飲めないタイプ。

これが、天下のイーニシュフェルト魔導学院の学院長なんだぜ。

な?情けないだろ?

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど…チョコパーティー開けて嬉しいから、今は良いや!」

あっそ。

「じゃあ早速、あま〜いホットチョコレートを用意して…」

え?今からなのか?

明日じゃねぇの?思い立ったが吉日?

「ついでに、マシュリ君とイレースちゃんの分も」

いや、だからマシュリはこれから集会なんだって。

イレースもイレースで、軽蔑しきった眼差しでシルナを見ているし。

まぁ、シルナは全然気づいてないけども。

「それから、ナジュ君や天音君や、令月君とすぐり君も呼ぼう!」

結局オールスター勢揃いじゃん。

俺だけが付き合ってやる、という当初の計画は何処に?

魔導理論の研究になると、ルーデュニア聖王国イチ、ってくらい賢い癖に。

チョコレートの話になると、IQが100くらい下がるのかもしれない。

「羽久がますます私に失礼なこと考えてる気がするけど、チョコパーティーが楽しみだから良いや!」

「あ、そ…」

失礼なことじゃなくて、事実だから。

まぁ…良いか。

このまま放っておいたら、最悪。

誰にも相手されないのが寂しいばかりに、通りすがりの生徒を拉致して、学院長室に連れてきかねない。

シルナならマジでやりかねないので、俺達で妥協してもらおう。



…と、思ったが。

事態は、それどころではなかった。