神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

電気がぷつんと切れるように、目の前が暗くなって。

「入れ替わった」俺は、マシュリを敵と認識した。

自分と、シルナの身を脅かす敵だと。

片手に懐中時計を光らせ、二十音(はつね)・グラスフィアはマシュリに向かって飛んだ。

その手が、マシュリに触れる。



…その前に。

誰かが、二十音の手首をガシッと掴んだ。
 



「…その必要はないよ、二十音」

シルナ・エインリー。 

この世で唯一、二十音・グラスフィアに言葉が届く人物。

シルナは二十音の手首を、ぐいっと引っ張って。

そのまま、二十音を腕の中に抱き締めた。

「大丈夫。君がそんなことをする必要はないんだよ」

「…しーちゃん…」

「うん、私が…しーちゃんが何とかしてあげるから。君は何もしなくて良い。…ゆっくりお休み」

子供をあやすように、二十音の背中をトントンと軽く叩く。

他の誰の言うことも聞かないが、シルナの言葉だけは、二十音の中に染み渡っていくようだった。

途端に落ち着きを取り戻した二十音は、甘えるようにシルナに抱きつき…。

…そして、いつもの静かな闇の中に。

二十音・グラスフィアの意識の中に、ゆっくりと眠るように消えていった。

二十音が眠りにつき、主導権を握る人格がいなくなった身体は、そのままシルナにしがみつくように崩れ落ちた。

シルナは、そんな二十音の身体を、そっと床に横たえ。

…改めて、暴走するマシュリと対峙した。

「…待たせたね、マシュリ君。…今、君を救ってあげるから」

シルナは、片手に杖を。

もう片方の手に、先程街の宝石屋で作ってもらったばかりの…。

鈍く黒い光を放つ、指輪を握っていた。