神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

…絶対、止めてやるからな。マシュリ。

自分の上司であるリリスを、このように傷つけるなんて、マシュリだって望んでないはずだ。

これ以上は、もうやらせない。

ナジュの為にも、マシュリ本人の為にもだ。

…出し惜しみはなしだ。

俺はポケットからナイフを取り出し、自分の手のひらに突き刺した。
 
溢れ出した、その血の力で…時魔法を更に強化した。

術者の血の力を捧げれば、一時的に魔法を強化することが出来る。

しかし、出血が続けば、当然俺も無事では済まなくなる。

だから、出来るだけ血の力は使わないようにしたかったが…。

贅沢言ってる場合じゃないからな。

シルナが戻ってくるまで、生徒達が避難を終えるまで、あと何分なのか、何秒なのか分からない。

だが、その一分一秒を繋ぎ続ければ、いずれその時はやって来る。

だから、俺は一分一秒を繋ぐ。

その場しのぎで上等。

「大人しくしてくれ、マシュリ…!」

強化した時魔法のお陰で、マシュリの動きがようやく鈍くなった。

どくどくと出血を続ける手のひらが、焼けるように痛む。

でも、こんな痛みが何だと言うのだ。

マシュリの痛みに、そのマシュリを止める為に、ナジュが受けた痛みに比べれば。

この程度、何と言うこともない。

「…そのまま抑えてて。少し…大人しくしてもらう」

そう言って、ベリクリーデは両手の剣に魔力を込めた。

「夜じゃないから、あまり威力は出ないけど…」

ベリクリーデの剣が、瞬く星の光に輝きを増した。

…凄い威力だ。

大雑把な魔法しか使えなかったはずなのに、いつの間にベリクリーデは、あんな芸当を…。

「ごめんね。少し痛いけど…我慢して」

ベリクリーデの星の剣が、暴走するマシュリの魔力を切り裂いた。

さすがのマシュリも、ただでさえ限界が近い状態で、この一撃は重かったらしく。

悲鳴のような咆哮をあげて、魔力の放出が少し弱まった。

よし、今だ。

「マシュリ、耐えろ…!もう少し…」

更に時魔法を強化して、マシュリの動きを完全に封じようとした。

…しかし、そのとき。

「っ…」

ぐらり、とジュリスが前のめりにふらついた。
 
それを見たベリクリーデは、急いでジュリスに駆け寄った。
 
凄まじい魔力の暴走を、ジュリスは一人で防御魔法陣を展開し続け、抑えていたのだ。

倒れるのも無理なかった。

「っ、ジュリス!しっかり…」

「良い、から…。構うな」

「駄目だよ、もう。これ以上は…」

「大丈夫だ。それより…お前も」

ベリクリーデに支えられ、膝をついたジュリスは、なおも防御魔法陣を展開し続けていた。 

しかし、ほんの一瞬防御魔法陣が途切れ、更にベリクリーデも、ジュリスを気遣うばかりにマシュリに背を向けた。
 
全員の緊張の糸が、一瞬だけ途切れた。

その隙を、暴走するマシュリは見逃してくれなかった。