神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

二度とナジュに、あの力を使わせるつもりはなかった。

しかし…こうなってしまった以上は、もうどうしようもない。

それに、奇しくもナジュの言ったことは正しかった。

目には目を、歯には歯を。

獣の力には、獣の力を。

現状、ナジュのお陰でマシュリを抑え込むことに成功していた。

…だが…。

「…不味いね、彼…限界だよ」

「…あぁ」

ベリクリーデの呟きに、俺も同意した。

マシュリは、無尽蔵な魔力を理性なく爆発させ続けている。

まるで底が見えない、とんでもない魔力量だ。

しかも、まだまだ尽きる様子がない。

一方で…ナジュのあの形態は、あくまで一時的なもの。

おまけに…純正じゃない。

リリスのような姿をしているけれど、動いている身体はナジュのものだ。

いくら不死身の身体とはいえ…人間の身体で、魔物の力を行使するには限界がある。

既にナジュの身体に、いくつも裂傷のような傷跡が無数に出来ていた。

このままじゃ、ナジュの身体が持たない。

マシュリを抑え込む前に、ナジュが限界を迎える。

そうなったら、誰もマシュリの暴走を抑えられない。

…頼む、もう少し…もう少しだけ、粘ってくれ。

そうすれば、生徒の避難が完了する。

生徒が非難してしまえば、かなり楽になるはずだ。

だから…だから、それまで。

…しかし。

「っ、ナジュ!!」

拮抗していた力と力のぶつかり合いが綻ぶときは、一瞬だった。

体力の限界を迎えたナジュは、マシュリのでたらめな魔力の大放出に耐えられなかった。

爆風に吹っ飛ばされ、さながら先程の俺のように、受け身も取れずに壁に激突した。

「…ぐはっ…」

ナジュは塊のような血を吐き、握り締めた拳を床についていた。

「ナジュっ…!大丈夫か!?」

今この一瞬も、俺は時魔法を緩めることは出来ない。

ナジュに駆け寄りたくて堪らないのに、時魔法を途切れさせられない。必死に呼びかけるしかなかった。

「ぐっ…、っく…」

ナジュはまともに言葉を話すことも出来ず、そのまま床で呻き、血を何度も吐いていた。

どう見ても、これ以上は戦えない。

あいつはもう限界だ。

「っ…マシュリ…!」

お前、これほどとは…。

時魔法で動きが鈍っているはずなのに…。

だが、マシュリも無傷ではなかった。

無尽蔵の魔力とはいえ、無限ではない。

これほどの凄まじい魔力を、惜しみなく爆発させ続け。

マシュリの身体も、無傷でいられるはずがない。

ナジュと同じように、マシュリの身体も所々裂け、血が滲み出ていた。

息は荒く、苦しそうに呻いている。

…そこまでして、お前って奴は。

その姿は、恐怖を通り越して、憐れだった。

俺には、マシュリが苦しんでいるようにしか見えない。

本当はこんなことしたくないのに、誰かに強制されているかのように。

…実際、強制されているようなものだ。

ケルベロスの呪いで、無理矢理。

だから、悪いのはマシュリではない。

マシュリもまた、この呪い…本人が言うところの、罪の被害者なのだから。