神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「…マシュリ…」

俺は今一度、凄まじい魔力を噴出差せているマシュリを見つめた。

その目は完全に正気を失い、本能のままに力を暴走させていた。

恐ろしいより、俺は今、マシュリのことが酷く可哀想だった。

…辛いよな、マシュリ。

誰よりも、お前が一番辛いだろう。
 
そんな姿を、そんな業を背負わされて。

お前のせいじゃないのにな。誰も彼も、お前が悪いみたいに言われて。

マシュリにだって、普通に生きる権利があったはずだ。

先祖の過ちに付き合わて、そのせいでマシュリの人生は狂わされた…。

こんな恐ろしい姿を晒すのは、マシュリが一番望まないことのはずだ。

「…大丈夫、今助けてやるからな」

もう二度と、誰の未来も奪いたくないとマシュリは言った。

だから奪わせない。俺達の未来も、マシュリの未来も守ってみせる。

俺は杖を片手に握って、マシュリと相対した。

「…出来るだけ長く持たせる。頼むぞ」

ジュリスは学院長室を取り囲むように、防御魔法陣を展開した。

「…星の力を纏え。星辰剣」

ベリクリーデが両手に構えた剣が、強い星の魔力を吸収した。

初めて見るんだが、あの武器は一体。

いや…今はそんなこと、聞いてる場合じゃないな。

「リリス…力を貸してください」

ナジュはそう言って、自分の中にいるもう一人に呼びかけた。

リリスが、上手くマシュリを説得してくれれば良いのだが。

果たして今のマシュリに、リリスの声が届くだろうか?

…いずれにしても、やるしかない。

シルナが学院に戻ってくるまで、生徒が避難を終えるまで、時間を稼ぐ。

「…eimt wlosnowd…dxceeeyingd」

一時的でも良い。マシュリを拘束する。

さっき、すぐりが糸で拘束しようとしたが、失敗した。

力ずくでは駄目なのだ。マシュリの暴走する力の方が強過ぎて、抑え込めない。

なら、マシュリの時間を止めればどうなる?

俺は時魔導師だ。マシュリ本人はもとより、マシュリの周囲の時間も操作することが出来る。

故に、俺はマシュリに魔法をかけ、最大限マシュリの時間を遅くした。

これで、僅かながらでも動きが鈍る。

…ナジュ…いや、リリスがマシュリに呼びかける隙を作れる。

「行くよ、星辰剣。あらゆる魔を切り裂いて」

ベリクリーデの両手の剣が、今まさに爆発しようとしていた、マシュリの魔力の塊を切り裂いた。

あの凄まじい魔力の塊を、一振りで一刀両断するとは。

ますます、あの武器と…使用者が誰であるかに対する謎が深まる。

当然、尋ねている暇はないが。

「マシュリさん…。…いや、マシュリ」

爆風に煽られながら、リリスはマシュリに語りかけた。

「しっかりして、マシュリ。私の声を聞いて」

「…」

リリスの問いかけに、マシュリは答えない。

聞こえてない…ってことはないと思うが…。

果たして、返事をする余裕が、理性があるのだろうか。

「お願い、こんなことはやめて。もとのあなたに戻って」

リリスは、マシュリにとって上司のような存在。

もしリリスの声が届いているなら、マシュリは正気に戻るはずだった。