「えっと…。生徒達皆、いろりさんのこと可愛がってるみたいだし…」

ナジュに促されて、天音はおずおずとイレース女王に意見した。

「それに、最初の約束通り、皆ちゃんといろりさんの面倒、見てあげてるでしょ?」

「それは当然です。そういう約束で飼うことを許可したんですから」

そこは褒めてやろうぜ。ちゃんと有言実行出来て偉い、って。

三日坊主じゃなくて、毎日きちんと面倒見てるんだからさ。

まぁ、いろりの場合…誰も面倒見なかったとしても、余裕で生きてると思うけど…。

「いろりさんも多分…買ってあげたら喜ぶと思うし…」

めちゃくちゃ喜ぶと思うぞ。

ちゅちゅ〜るであれだけ興奮してんだから、キャットタワーなんか買った暁には。

あいつ、もう猫の姿から人間に戻らないんじゃね?

「良いんじゃないかなって…思う、かな。うん…」

「…」

「…えっと…ごめんなさい」

イレースにじろりと睨まれ、天音は視線を逸らして謝っていた。

…別に天音が悪い訳じゃないからな。謝らなくても。

この微妙な空気を、何とか打破しようと。

シルナはここぞとばかりに、手土産代わりに持ってきたチョコモンブランを差し入れた。

「ま、まぁまぁイレースちゃん。落ち着いて。たまには生徒達に譲歩してあげようよ。ね?とりあえずチョコモンブランあげるから、それ食べて落ち着、」

「黙っていなさい」

「…はい…」

馬鹿め。

イレース相手に、チョコモンブランなんて賄賂が効くはずないだろ。

案の定、一刀両断されて黙らされてる。

あのチョコモンブランは…多分、明日の朝食のデザート行きだな…。

「…良いでしょう。そこまで言うなら、勝手にしなさい」

イレースは深々と溜め息をついて、そう言った。

やった。女王陛下の許可が降りたぞ。

「ほ、ほんとっ?ありがとう、イレースちゃ…」

「その代わり、条件があります」

「…条件?」

いろりを飼うと決めたときも、同じように条件出してたよな。

ただでは許可しないという、強い意志を感じる。

「エントランスを汚さないこと。通行の邪魔になるほど大きなものは買わないこと」

「あ、う、うん。分かった…」

「それから、購入にかかる費用は生徒の募金ではなく、学院長、あなたと天音さんのポケットマネーから捻出すること」

えっ。

「な、何で…?」

「言ったでしょう。そんな下らないことの為に、未成年からお金を徴収する訳にはいきません」

…うーん。

イレースの言い分が正しいと思ってしまう。

でも…。

「何で天音まで…?」

「キャットタワー購入に賛成なのでしょう?どうしても欲しいと言うなら、購入に賛成する教員が、責任を持ってお金を出しなさい」

口を出すなら金も出せ、ってことだな?

相変わらず容赦ないが、しかし間違ってはいないな…。

「…うぅ…。分かった、出すよ…」

天音は苦笑いでそう言った。

「俺も出すから、三人で分担しようぜ…」

「僕も出しますよ。四人で分担しましょう」

と、ナジュが自ら名乗り出た。有り難い。

良かったな天音、犠牲になるのはお前だけじゃない。

死なば諸共ってことで行こうぜ。