何だ、藪から棒に。

「猫の名前って…?」

「今日、生徒に聞かれたんだよ。この猫ちゃん、名前つけてあげないんですかって」

そういえば、猫と呼ぶばかりで名前をつけてはいなかったな。

大抵の人は「猫ちゃん」呼びだし。

でも、考えてみれば猫ちゃんはおかしいか。

人間だったら、「人間ちゃん」と呼んでるようなものだ。

猫としても、いつまでもそんな呼び方は不本意だろう。

学院で飼うことを決めたのなら、きちんとそれなりの名前をつけてやらなくては。

「そろそろ名前つけてないと可哀想だなぁって。そんな訳だから、皆で猫ちゃんの名前を決めてあげよう!」

…だ、そうだぞ。

名前か…猫の名前…。

「こいつ、銀色の毛をしてるから…『銀』とかどうだ?」

「びっくりするほど安直ですね」

うるせーナジュ。

そんな咄嗟に言われても、思い浮かばねぇよ。

「イレースちゃんは何が良いと思う?」

「タマで良いでしょう。猫の名前なんて」

それも安直過ぎるだろ。

猫に興味ないのは分かるが、もう少し真面目に考えてやってくれ。

名付けは大事だぞ。

「令月君は?どう思う?」

「僕?そうだな…。…ブチ丸」

ブチ猫じゃねーよ。

「すぐり君は?」

「ミケでいーんじゃない?」

ミケ猫でもねーよ。

駄目だ。皆名付けが安直過ぎるぞ。

これじゃあ生徒達に「ダサい」と言われかねない。

「そういうシルナは、何が良いと思うんだよ?」

「え、私?私はねぇ…『チョコちゃん』が良いと思う!」

茶トラでもねーよ。

お前がそう呼びたいだけだろ。

ここぞとばかりに自分の好物出してきやがって。

いや、だからって「銀」が良い名前とも言えないが。

すると。

「皆さん名付けが下手ですねぇ。センスってものがないんですよ」

やれやれ、とばかりにナジュが頭を振った。

何だ。自信満々のようだな。

「そこまで言うなら、お前はどんな名前が良いと思うんだよ?」

「アレクサンドリア4世とかどうでしょう」

何処の王侯貴族?

「そんな自信満々で言う名前かよ、それが…」

「失礼な。そんなに『銀』が良いですか?何処の侍ですよ」

悪かったな。

俺のネーミングセンスもさることながら、他の教師陣からもろくな意見が出てこない。

かくなる上は。

「天音。お前に全てが懸かってる。ここで一発、皆をあっと言わせる名前を考えてくれ」

「え、僕?え、えーと…そうだな…」

今のところ出てる案は。

銀、タマ、ブチ丸、ミケ、チョコちゃん、アレクサンドリア4世の6つか。

どれも微妙だ。特に最後。

やはり、ここは天音の機転に懸けるしかなさそうだな。

頼んだぞ、天音。

「えっと…やっぱり食べ物の名前の方が親しみやすいよね…?」

「別に食べ物に限らないから、何でも良いぞ」

「それじゃその…と…」

と?

「…お豆腐ちゃん、とか?」

「…」

…天音。

お前に期待した俺が馬鹿だったよ。