神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「最初は何処に行くの?」

「私のおすすめスポットだよ」

マシュリの問いかけに、シルナが答えた。

シルナのおすすめスポット…。

シルナはルーデュニア聖王国建国時から、ずっとこの国にいる。

そんなシルナのおすすめスポットなのだから、非常に興味深い。

筋金入りのセレーナっ子が選ぶ、王都セレーナの一番のおすすめスポットとは…。

「はいっ、まず一軒目。このお店です!」

シルナはドヤ顔で、洒落た外装の店を指差した。

何の店かと思ったら。

「…シルナ。これは何だ?」

「私の行きつけのケーキ屋さん!」

だよな。

…お前のおすすめスポットって、まさかケーキ屋?

「ここは凄いよ!イチゴのショートケーキ、モンブラン、チーズケーキみたいなオーソドックスなケーキは勿論、オレンジチョコケーキ、キャラメルチョコタルト、チョコバナナマフィンといった、幅広い色んな商品が揃ってて…」

「…」

ひたすら力説しまくるシルナ。

チョコばっかじゃん。

夢中なところ、悪いんだけどさ。

わざわざ休日を潰してまで、紹介しなきゃならない場所か?ここが。

そりゃシルナにとっては、楽園みたいな場所なんだろうけど。

「更に、店内飲食も可能!外にお洒落なテラスがあるでしょ?そこから街の景色を眺めながら、美味しいケーキを食べられるんだよ!もう…最高だよね!」

シルナの目は、多分今月で一番ってくらいキラキラ輝いていた。

嬉しそうで何より。

「…こんな下らない場所を紹介する為に、マシュリさんをここまで連れてきたんですか?」

「ま、まぁ…。価値観は人それぞれだから…」

顔をしかめるイレースを、天音がフォローしていた。

良いんだぞ、天音。正直に言って。

「ケーキ屋なんて紹介されても困るよね」って。言ってしまって良いんだぞ。

俺が許す。

更に、うっきうきのシルナは。

「はいっ、次は二軒目!」

歩いて、今度は別のケーキ屋に案内してくれた。

まさか、この調子で何軒か紹介するつもりなのか?

…俺はマシュリに、王都のおすすめスポットを教える為に来たのであって。

スイーツ食べ歩きのおすすめコースを案内しに来た訳じゃないぞ。

しかし、興奮するシルナにそんな言葉が届くはずもなく。

「このお店も凄いよ!何が凄いってここ、毎日数量限定で販売してるチョコバームクーヘン!」

はぁ。

「毎日、開店一時間程度で売り切れてるんだ。このお店の名物なんだよ!」

シルナも嬉々として並んだんだろうな。その姿が目に浮かぶよ。

イーニシュフェルト魔導学院の学院長ともあろう者が、朝っぱらからチョコバームクーヘンの為に行列に並ぶとは。

ルーデュニア国民の皆々様に申し訳ないとは思わないのか。

「これがもう…最高に美味しくてね、口の中がチョコでいっぱい。溢れ返るチョコ。口に入れた瞬間、チョコが『チョコーっ!』って叫んでるみたいなんだよ」

食レポが下手。

とにかく、シルナがチョコ好きなんだってことはよく分かる。

で、マシュリの反応はと言うと。

「…甘い匂いで、頭がくらくらする…」

顔をしかめて、鼻を押さえていた。

あー。うん、なんかマシュリってめちゃくちゃ鼻が良いんだよな。

シルナにとってはご褒美でも、マシュリにとっては、噎せ返るチョコの匂いはきついらしい。

分かるよ。ごめんな、本当。