神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「そ、そんな…。皆、ケーキだよ。チョコのケーキ!チョコクリームがたっぷり乗ったケーキ!」

チョコだろうがチーズだろうが抹茶だろうが、そういう問題じゃないんだよ。

皆今は、いろりの帰還で頭がいっぱいだから。

「いろりちゃんじゃなくて、ほら、こっちに来てケーキを、」

「お腹空いてない?いろりちゃん。ミルク飲む?」

「猫じゃらしがあるよ。おいでー」

「待てって。先にブラッシングだろ?」

…シルナの声、全然届いてない。

それどころか、チョコチョコうるせぇ学院長のことなんて、完全にアウトオブ眼中。

残念だったな、シルナ。

チョコで猫には勝てない。

「ケーキ…。チョコ…」

呆然とつぶやくも、誰も振り返る者はいない。

…シルナ、いろりを前に完全敗北。

仕方ないな。潔く負けを認めろ。

学院長のチョコケーキよりも、生き物であるいろりの方が面白いわな。

そりゃ仕方ない。

「…うわぁぁぁん、羽久…!いろりちゃんに生徒を盗られた~っ!」

生徒に相手にしてもらえなくなったシルナは、俺に泣きついてきた。

ナジュと言い、天音と言い、いろりと言い…。

シルナの人気を奪う者が増えたな。

こりゃもう、シルナ引退の日も近いな。

「もぐもぐ。ケーキ美味しいね」

「俺はいちご大福の方が好きだけどねー」

そんなシルナをよそに、いつの間にか元暗殺者組がやって来て。

シルナのチョコケーキを、勝手につまみ食いしていた。

ちゃっかりした奴らだよ。

別に良いけどさ。

せめてお前達くらいは、シルナの相手をしてやってくれ。

「令月、すぐり…。聞いてたか?」

「何を?」

「いろりの行方が分からなくなってた理由…」

学院の近所で保護されてた、っていうあの作り話だ。

しかし、令月とすぐりは、それが作り話であることを知っている。

いろり…マシュリの正体のことも。

俺達としては、この真実を生徒達にバラされたくない訳で…。

「分かってるよ。そういうことにしておく」

「合わせればいーんでしょ?お安い御用だよ」

「…どうも」

言わなくても分かってたか。有り難い。

嘘をつかせるのは心苦しいが、ここは俺達の嘘に合わせて欲しい。

いろりはあくまで、迷子になってただけ。

親切な人に送り届けられて、学院に戻ってきた。

…いや。

あながち、嘘じゃないかもしれないな。

行き場もなく彷徨っていたマシュリが、シュニィの手引きで学院にやって来たと思えば。

終わり良ければ、って奴だな。