最初に猫を見つけた3人と、その後応援として駆けつけた4人、計7人の女子生徒達の手によって。

びしょ濡れだった猫は、ふわふわの毛並みを取り戻した。

「良かった。元気になったみたい」

「可愛いね。何処から迷い込んだんだろう?」

ホッと一息ついたのも束の間。

困ったのはその後であった。

「でも…この子、どうしよう?」

一人がそう尋ねると、他の6人は黙り込んだ。

さすがに、そこまでは考えていなかった。

彼女達はただ、目の前の小さな命を見過ごせなかっただけである。

「飼い猫なのかな…?」

「分かんない…。首輪はつけてないみたいだけど」

「じゃあ野良猫かな…。随分汚れてたみたいだし…」

と、憶測を重ねても何も解決しない。

まさか猫に直接尋ねる訳にもいかず。

「…それに、この子の餌はどうしよう?」

更に、問題勃発。

ここは魔導学院であって、当然猫の餌など置いていない。

生徒達は無断で街に出ることは出来ないので、近所で買ってくるという訳にもいかない。

そもそも、既に下校時刻は過ぎており、学校の門は閉まっている。

「猫って、何食べるんだっけ?」

「チーズとか?」

「チーズなら、学院の食堂にもあるかも」

「どうだろう。人間の食べ物は食べさせちゃ駄目なんじゃないかな…」

意見が錯綜。

残念ながら、この7人の中に、猫を飼ったことのある経験がある者はいなかったらしい。

「牛乳なら良いんじゃないかな。牛乳あげようよ」

と、一人の女子生徒が提案した。

「牛乳か…。食堂にありそうだね」

「じゃあ、取りに行く?」

「でも…もう校舎はしまってるよ」

「そうだよね…。それに、夜の校舎って…最近、幽霊騒ぎが…」

「ちょ、やめてよ…。あれってガセなんでしょう?」

「さぁ。先生方はそう言ってるけど…」

まさか、幽霊騒ぎの正体は死体を操るネクロマンサーの仕業でした、とも言えず。

真実のほどは、生徒達には隠されたままである。

「どうしよう…」

「…先生に、相談してみる?」

「…」

皆心の隅っこで思っていながら、しかし言うに言えなかったことを、一人の女子生徒が口にした。

生徒達で対処しきれないなら、大人…すなわち教師…を呼べば良い。

しかし…。

「…」

無言で思い出す。彼女達の教師のことを。

「イレース先生…私達が猫を拾ったって聞いたら、どうするだろう?」

「…最悪保健所行きかも…」

有り得ない話ではない。

何せ、元ラミッドフルスの鬼教官と呼ばれた教師、イレース・クローリアは。

校内にカマキリ(学院長の分身)を見つけただけで、遥か彼方にぶん投げたという逸話がある。

猫を拾ったなどと言おうものなら、それこそ、保健所送りにされてもおかしくない。 

彼女達にとって、それだけは絶対に避けなければならなかった。

ならば、どうするか。

猫に餌と、それからたちまちの居場所を与える為に…。

「…私、考えがあるんだけど…任せてもらえないかな?」

暗礁に乗り上げたところに、一人の女子生徒がそう提案した。

彼女の名は、ツキナ・クロストレイである。