神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

ルディシアのときも、まさか死体を操るネクロマンサーが刺客だとは思わなかったが。

今度は猫とはな。

例え命を狙われたとしても、絶対気づかなかっただろうな。

普通に愛猫として可愛がってたもん。俺ら。

皆で名前決めたり、猫じゃらし買ってきたりしてさ。

成程、いろりのこと、ずっと賢い猫だなと思ってたが。

それは中身がマシュリだったからなんだな。納得。

まさか、自分達の命を狙いに来た刺客を可愛がっていたとは…。

もしマシュリがその気になって、いろりの姿で俺達に奇襲を仕掛けたとしたら。

間違いなく、その作戦は成功していたことだろう。

しかし、その作戦が実行に移されることは、ついぞなかった。

それは何故なのか?

「…学院に潜り込めれば、それだけで良かったのに…」

と、マシュリは言った。

「皆して、無警戒に僕のこと構って…遊んで…可愛がって…」

「…まさか、それで情に絆されたのか?」

「…」

無言でこくり、と頷くマシュリ。

…結構素直な奴だよな、マシュリって。

ナジュとは大違いだぞ。

「…何で僕と比較するんですか?」

うるせぇ。

お前は少し、マシュリの爪の垢を煎じて飲ませてもらえ。

いろり…マシュリのこと、可愛がっといて良かった。

俺としては、学院の新しいマスコットを可愛がってただけなんだが。

まさか、そのお陰で命を救われる結果になるとは。

分からないもんだな、世の中。

とりあえず俺、今日から、野良猫見つけたら可愛がっておくことにするよ。

「イーニシュフェルト魔導学院は、シルナを始め、お人好しばっかだからな…」

でも、今回はそのお陰で救われたな。

改めて、マシュリが味方になってくれて良かった。

つくづくそう思う。

「しかし、いろりちゃんがマシュリさんだったとは…」

「生徒達、明日いろりちゃんの姿を見たら、皆喜ぶね」

天音とシルナがそう言うと、マシュリは。

「…え?」

と、首を傾げていた。

…何だよその、え?ってのは。

「何だ。何か不満なのか?」

「いや…不満って言うか…」

「それとも、正体がバレた今、猫に化けるのはやめるつもりか?」

いろりじゃなくて、マシュリとして生活したいのか?

それならそれでも良いけど。

「いろりの姿に…また戻って良いの?生徒達の前に…」

…あぁ、そう。

成程、そういう心配な。

お前の素直なところは、ナジュに爪の垢を煎じて飲ませたいが。

逆にお前には、ナジュの爪の垢を煎じて飲ませたいな。

マシュリも少しは、ナジュの図太さを見習うべきだな。

「だから、何でさっきから比較対象が僕なんですか?」

うるせぇ。

「生徒達皆、いろりが戻ってくるのを待ってるんだよ」 

あれだけ可愛がられてたんだから、お前だって分かるだろ。

自分が必要とされてることくらい。

「不在の理由は、上手く誤魔化してやるから…安心して戻ってこい。分かったか?」

「…分かった」

よし、それで良い。

生徒達の喜ぶ顔…目に浮かぶようだな。