神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

訳が分からなくなっているのは、俺だけではない。

「え、いろりちゃ…マシュリ君…。…えぇ…!?」

俺以上に脳年齢が老人なシルナも、状況を把握しきれていない様子。

良かった、俺だけじゃなくて。

シルナは俺以上にアホだった。

「どういうことなのかさっぱり分からないけど、羽久が私に失礼なこと考えてるのは分かる…!」

むしろ、何でそっちは分かるんだ?

「君、猫に姿を変えられるの?」

狼狽しまくる大人を尻目に。

令月は非常に冷静な様子で、マシュリに尋ねた。

令月お前、人生何回目だ?

この状況で、的確にそんな質問が出てくるなんて。

すると、マシュリの答えは。

「そうだよ。…気づいてなかったの?」

あっけらかんとして、あっさり肯定。

…気づくかよ。

「最初は、聖魔騎士団じゃなくて、イーニシュフェルト魔導学院に目をつけて来てたんだけど…」

と、マシュリはようやく事情を説明してくれた。

ルディシア同様、マシュリもまた、ルーデュニア聖王国に入国するなり。

聖魔騎士団ではなく、ここイーニシュフェルト魔導学院に目をつけていた。

俺達、全然気づいてなかったんだか?

危なっ…。

マシュリが説得に応じて、味方になってくれてなかったら、今頃どうなっていたか。

「でも、そのままの姿じゃ怪しまれるから…猫に姿を変えたんだ。…こんな風に」

マシュリはパンと手を打って、それから空中で一回転。

現れたのは、いろりの姿だった。

…マジかよ。

にわかには信じ難いが、実際に目の前でメタモルフォーゼする瞬間を見てしまったら。

信じざるを得ないじゃないか。…マシュリといろりが、同一人物であることを。

「お前、それ…シルナの分身魔法みたいなものか…?」

シルナも、得意の分身魔法で色々な姿を作ることが出来るもんな。

その応用みたいなものだと思えば、マシュリが姿を変えられるのも不思議ではない…、

…いや、やっぱり不思議だよ。

充分怪しい能力だよ。

どうやってるんだ?それ…。

「分身…ではないよ。姿が変わってるだけで、ちゃんと本体だから」

いろりの姿のまま、マシュリが答えた。

その学校でも、喋ろうと思ったら普通に喋れるんだな。

「猫のフリして学院に忍び込んだのは、我々の目を誤魔化す為ですか」

「そうだね、元々はそうだった。…思った以上に歓迎されて驚いたよ」

イレースの問いに、マシュリは素直に答えた。

めちゃくちゃ可愛がられてたもんな、生徒に。

しかしあれも、いろりの…いや。

マシュリの演技だった訳か。

可愛い迷い猫を演じて、イーニシュフェルト魔導学院に合法的に潜り込む…。

大胆な変装だと思えば、納得出来なくもない…か。

まんまと騙された俺達って、一体。

いや、そんなの普通気づかないだろ。

だってこの姿…何処からどう見ても、普通の猫だ。

これがまさか、ルーデュニア聖王国に潜り込んだ『HOME』のスパイだなんて、どうやって気づくことが出来る?