果たして届くだろうか。シルナの言葉が。

「私も君と同じだよ。許されない罪を背負ってる。その辛さはよく分かる…」

…。

…同胞を裏切って、神に逆らった罪、か?

「私にとっては、マシュリ君のご先祖様が犯した罪…人間と魔物が結ばれて、子孫を作ること…が、罪だとは思わない。そんなに責められるほど悪いことはしてないと思う」

俺もそう思う。

人間と魔物が結ばれるのが悪いことだって、誰が決めた?

ナジュとリリスはどうなるんだよ。しょっちゅうイチャイチャしてんぞ、あいつら。

俺達が魔物と人間の愛を嫌悪しないのは、それが理由だろうな。

ナジュとリリスの大恋愛を見ているから。

人間だから、魔物だから…それがどうした?

二人が互いに深く愛し合っているなら、何でそれが罪になることがあろうか。

誰を好きになるかなんて、自分じゃ選べないだろ。

「でも、君達の…ケルベロスの種族の中では、きっと許されない悪なんだろうね」

「…そうだね」

頭の固い連中が揃ってるらしい。

多分、自分達は魔物としてのケルベロスであるという誇りが強いんだろう。

そのせいで、簡単に人間に絆された同種の存在が許せなかった。

だからこそ…子々孫々重い罪を背負わせることにしたんだろう。

ますます、マシュリが何をしたんだよ。

百歩譲って、悪いのはマシュリのご先祖様だけだろ。

マシュリ自身が悪い訳じゃない。

それなのに、何故マシュリまで呪う必要があるのだ。

「だからこそマシュリ君は、罪にまみれて生きている。自分という存在は、罪そのものなのだと思い込んで…」

「…思い込むも何も、僕の存在は罪だよ」

それを思い込みだって言うんだよ。

「確かにそうなのかもしれない。マシュリ君はそう思うのかも…。だけど、君は気づいてないみたいだけど、マシュリ君の存在は罪じゃない」

「何でそう言える?」

「分かるから。君は罪によってじゃなく、愛によって生まれた存在なんだよ」

「…」

…これには。

俺も、マシュリも…驚きのあまり、言葉が出なかった。

…愛…。

…愛、か。

「許されなかったとしても、誰も認めてくれなかったとしても…君はご先祖様の愛によって生まれたんだ。愛によって繋がれてきた命なんだ」

「…」

マシュリの罪は、愛によって起きた罪。

シルナと同じだ。

誰かへの深い愛の結果、罪を犯すことになってしまった。

でもその罪の根底にあるのは、憎しみや怒りではない。

愛だ。

ただその人を愛するが故に、生まれた罪。

マシュリの罪は消えないが、しかしその奥深くにある愛もまた、誰にも消すことは出来ない…。

「例え間違っていようとも、君は愛されて生まれてきたんだ。…それだけは、忘れないであげて」

シルナは、マシュリに訴えかけるようにしてそう言った。

シルナが言うと、言葉の重みが違うな。

同じく、愛によって大きな罪を犯したシルナが。

「そして、出来ることなら…許してあげて欲しい。君の種族は君のご先祖を許さないだろうけど、彼らの愛によって生まれた君だけは、ご先祖様達を許してあげて欲しい」

「…」

「…すぐには無理だと思うよ。でもいつか…いつかで良い。君がいつか、自分の存在を許すことが出来たら…」

自分のことも…自分のご先祖達のことも。

いつか、許せる日が来る。
 
そうであることを祈るよ、俺も…。