神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

我がイーニシュフェルト魔導学院の校則では。

当然、学院の敷地内で生徒が勝手にペットを飼うのは禁止である。

学生寮の中も、動物の持ち込みは不可である。

従って、こんなところに猫がいるのはおかしい。

何か事情があったと考えるべきだろう。

「実は、その…この子は…」

困ったような顔で、もごもごと喋る女子生徒の代わりに。

「学生寮の裏に迷い込んでたんだって。それをこの人達が保護してさー。しばらく飼ってたんだよ。園芸部の倉庫で」

「餌は僕と『八千歳』が協力して、学院の食堂から失敬したり、近くのお店で買ってきたんだ」

すぐりと令月が、事の次第を簡潔に説明してくれた。

…成程…。

生徒が外から連れてきたんじゃなく、この猫が学院の中に迷い込んできたんだな?

「この猫…飼い猫か?それとも野良?」

もし飼い猫だったら、今頃飼い主が血眼になって探してるんじゃないか。

と、思ったが。

「首輪もないし、飼い主が探してるような気配もないし、多分野良猫なんじゃないかな」

令月がそう答えた。

野良猫なのか…。

まぁ、猫本人に確かめる訳にはいかないから、あくまで憶測だが…。

「…こいつか…」

銀色の猫を見て、俺はやっと得心が行った。

イレース達が、近頃生徒達が浮ついてると言ってたが。

それはこの猫のせいだったのかもしれない。

令月とすぐりの話を要約すると、つまり…。

「…俺達教師に隠れて、こっそりその猫を飼ってたってことだな?」

「…はい…」

女子生徒達は皆俯き、小さくこくりと頷いた。

…まぁ、潔く認めるんだから可愛いもんだ。

すると。

「羽久、そんな責め方しないであげて。この子達は猫ちゃんを守ってあげたかっただけだよ」

何故か、シルナが真っ先に生徒達を庇っていた。

あのな…お前はこの生徒達を叱らなきゃならない立場なんだって、分かってるか?

何故率先して庇ってるのか。

まぁシルナらしいとも言えるけど…。

「行き場のない子を見なかったことにするんじゃなく、叱られる危険を犯しても、保護して守ってあげてたこの子達の判断を、私は正しいと思うよ」

「…分かったよ」

それは俺だって、そう思ってるよ。

行き場をなくした猫を、厄介事に巻き込まれたくないからって見て見ぬ振りして。

結果、学生寮の裏庭で猫の遺体が見つかるようなことになったら…。

そっちの方が、叱られるよりずっと後味が悪いだろう。

生徒にとっても、俺達にとってもな。

だから、猫を保護して飼っていたことに関しては、俺も責めるつもりはない。

ただ、俺が言いたいのは。

「…何でこのことを、今日に至るまでずっと黙ってたんだ?」

何故、もっと早く打ち明けてくれなかったのかという点だ。