神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

改めて。

「それで、シュニィ。その犯人は何処にいる?」

「教えたらあなた、犯人…マシュリさんを成敗するつもりでしょう?」

「勿論だ!いくらシュニィが美人だからって…いくらシュニィが美人だからって!シュニィを誘拐するなどけしからん!」

大切なことだから、二度言った。

「じゃあ駄目です、教えません。私は、彼を成敗して欲しくないんです」

「何だと?」

眉をひそめるアトラスである。

何故自分を誘拐した犯人を庇うのか、と言いたそうな顔だ。

俺もそう思うけど、誘拐されているとき、犯人とシュニィの間で何かあったのだろう。

「彼は居場所が欲しかっただけです。自分の家…家族が」

と、シュニィは言った。

「その思いを、アーリヤット皇王に利用されてしまったんです。私はマシュリさんに、今度こそ温かい居場所を作ってあげたいんです」

「…」

「だから、彼を裁くのはやめてあげてください。例えアトラスさんでも…それは譲りません」

…成程。

決意は固そうだな。

「…」

アトラスは黙ったまま、シュニィを見つめていた。

自分の妻が誘拐犯を庇っているのを見て、不愉快な気持ちになっているのかもしれない。

あるいは、拉致されている間に洗脳でもされたのか、と心配しているのかも。

…いずれにしても…。

「会ってみないことには、分からないだろ」

ベリクリーデと共に、床に伏せて身を守っていたジュリスが、ようやく起き上がった。

命拾いしたな、ジュリスは。

「会って、話してみないことには。シルナ・エインリー、お前もそうだろ?」

「…うん、そうだね。私もその子とお話してみたいよ」

ハンカチで顔を押さえたまま、シルナが答えた。

…だな。

ナジュから話は聞いていたが、やはり実物を目にしないことには。

本当に安心して良いのか分からない。

「…よし、分かった」

アトラスが何やら、決意を固めたようだ。

「シュニィがそこまで言うなら…。シュニィに免じて、ひとまず矛を収めよう」

おぉ、さすがシュニィだ。

あのアトラスに、理性を取り戻させるとは。

「だが、もしその犯人が、シュニィにけしからんことをしていたら…そのときは、俺が成敗してくれる」

「…何もされてませんよ。心配しなくても」

それなら良いんだが。

理性を取り戻したとはいえ、いつまたアトラスが暴走機関車と化すか、気が気じゃないよ。

「分かりました。それでは…マシュリさんのところに案内します。…ジュリスさん、誰も入ってこないように見張っていてもらえますか?」

「あぁ、任せろ」

ここからは、あくまでもオフレコってことで。

ケルベロスと人間のキメラ…か。

一体どんな…魑魅魍魎が出てくるのかと、俺は内心ハラハラしていた。





…の、だが。