神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「あ、アトラスさん…!?」

「シュニィ、無事だったか…!」

夫婦の、感動の再会である。

が、あまりの凄まじい勢いに、俺は危うくふっ飛ばされるところだった。

ジュリスはベリクリーデを庇って、すんでのところで床に伏せてセーフ。

ナジュもいち早く心を読んで避難していたので、無傷。

俺も非常に危ういところだったが、何とかイノシシアトラスにふっ飛ばされずに済んだ。

「あぶぁはっ!」

が、反射神経がおじいちゃんなシルナは、アトラスに半ば突き飛ばされて、壁に顔面を強打していた。

シルナ…お前のことは、忘れないよ…。

「ちょ、が、学院長先生大丈夫ですか?し、しっかり…。あ、アトラスさん、ちょっと離れ…」

アトラスに抱き締められたシュニィは、何とかシルナに手を貸そうともがいていたが。

「良かった、シュニィ…。本当に良かった。…心配したんだぞ」

もう二度と離さんとばかりに、アトラスに強く抱き締められ。

「…アトラスさん、ごめんなさい…。…心配をかけましたね」

シュニィの方も、アトラスの背中に手を回して抱き締め返した。

…色々大変だったが、またこの二人が再会出来て、本当に良かった。

そう思わせてくれる、実に熱い展開である。

シルナが横で鼻血出してるけど、それは些細な問題だな。

「羽久ぇ…。助けて…」

「ほら、ハンカチ」

涙目で助けを求めてくるから、仕方なくハンカチを手渡しておいた。

が、アトラスは、当然シュニィしか目に入っていない状態だったので。

ようやくシルナの存在に気づいても、あっけらかんとして。

「…ん?シルナ学院長じゃないか。どうしてここにいるんだ?」

お前、さっきシルナのことふっ飛ばしてたんだけど。

それは気づいてないのか。そうか。

まぁ、お前はそういう奴だよ。

…それどころか。

「アトラスさん、あのですね。あなたさっき学院長先生を突き飛ば、」

「いや、そんなことはどうでも良い」

アトラスは、ハッと思い出したかのようにそう言った。

どうでも良いってさ、シルナ。

まぁ、確かにどうでも良いな。

シュニィが無事に帰ってきてくれたんだから、鼻血シルナのことなんかどうでも良いさ。

「シュニィ、お前を誘拐した犯人は何処にいる?」

再会の喜びに輝いていたアトラスの目が、憤怒に染まっていた。

…これはやべぇ。

非常にヤバい空気を感じるぞ。

今更だが、逃げた方が良いのでは?

「えっ。あ、いえ…それは」

口ごもるシュニィ。

「まさか、逃げたのか?」

「いえ、逃げてなどいませんよ。ですが、彼は決して悪い人ではないので…」

シュニィは必死に、自分を誘拐した犯人を庇おうとしていた。

…が。

当然、妻を連れ去られたことで怒り心頭に発しているアトラスには、生半可な言葉では届かない。

「そいつは何処だ?よくも俺のシュニィを…いくらシュニィが世界一の美人だからって、やって良いことと悪いことがある」

「いや、あのですねアトラスさん…。私が美人だとかはどうでも良くて…」

「シュニィが美人であること以上に、優先度が高い事象がこの世にあるのか!?」

「あるに決まってるでしょうが」

今日も良い感じに、アトラスはアトラスだなぁ。

しかし、このままだと捕らえた犯人、シルナと同じくアトラスにぶっ飛ばされそうな勢いなんだが…。

…大丈夫だろうか?