神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「だ、大丈夫なの…?本当に…?」

これにはシルナもびっくりであった。

「むしろ、大丈夫じゃないとお前達が思う根拠は?」

「いや、だってあいつは…。ケルベロスのキメラだって、ナジュが」

「…ケルベロス?」

怪訝そうに眉をひそめるジュリス。

あぁ、えぇと。

これを先に説明しないとな。

「…!学院長先生方も、知っていたんですね」

シュニィが言った。

ってことは、シュニィも知ってるのか。本人の口から聞いたか?

マシュリという、あの魔物の正体を。

「あぁ。ナジュが…と言うか、ナジュの中にいるリリスが教えてくれた」

「そうだったんですね。…でも、大丈夫です。マシュリさんは決して、悪い人ではありませんから」

シュニィは、きっぱりとそう言った。

聖魔騎士団副団長として、人を見る目は確かである。

そのシュニィがこうまできっぱりと、魔物…マシュリ無害だと断言した。

つまり、大丈夫なのだ。

ナジュから聞いた話だと…とんでもなく獰猛で邪悪そうなイメージなのだが…。

…まぁ、実際にこの目で見てみないことには、何とも言えないな。

「シュニィ、お前は本当に魔物に捕まってたのか?」

ジュリスが改めて、シュニィに尋ねた。

魔物…厳密にはあれは魔物ではなく、魔物と人間のハーフみたいな…。

「えぇ、そうです」

「もしかして、この間のネクロマンサーと同じ、アーリヤット皇国の手の者か?」

皇王直属軍、通称『HOME』だったか。

「はい…そう聞いています」

シュニィは確かに頷いてみせた。

やっぱりそうだったのか。

じゃあ、俺達が予想していた通り…。

シュニィを誘拐することで、聖魔騎士団を動揺させ、弱体化させる為に…。

…なぁ、本当にそんな奴、客人扱いで大丈夫なのか?

大人しく投降した以上、変な気は起こさないと思うけど…。

「魔物ってことは、契約者の召喚魔導師がいるはずだろ?そいつは何処なんだ?」

「あ、いえ…違うんです、ジュリスさん。彼は契約召喚魔ではなく…」

と、シュニィが言いかけたそのとき。

「ジュリス、イノシシ」

「あ?」

ベリクリーデが、不意にジュリスの服の裾を引っ張ってそう言った。

…イノシシ?

「イノシシが来るよ」

「は…?何だよ、いきなり…。…!?」

俺とシルナも同様に、突如として聞こえてきたその異音に目を見合わせた。

ドドドドド、と。

それこそ、イノシシが突撃してくるような音が、廊下の向こうから迫ってきた。

な、何なんだこれは?

もしかして、やっぱり捕らえた誘拐犯が脱走を試みてるんじゃ、

「…!不味い、この音は…」

「おっと…どうやらヤバいことになりそうですね」

シュニィがいち早く音の正体に気づき、次にナジュが、そんなシュニィの心を読んで、緊急回避とばかりに身を屈めた。

「皆さん、避けてください!」

シュニィの叫び声が、廊下にこだました。

え、いや…避けるって何を?

と、聞く前に。

「シュニィぃぃぃぃぃっ!!」

とんでもない轟音を立てて爆走してきたアトラスが、稲妻のような勢いでシュニィに抱きついた。