神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

…で。

聞きたいことは、山のようにあるが…。

「…お前は誰だ?」

シュニィの横で、シュニィと手を繋いでいるお前は何者だ。

全く見覚えのない顔である。

聖魔騎士団の人間じゃないのは確かだな。

シュニィと手なんか繋いで、アトラスに見られたらお前、ぺちゃんこに潰されるんじゃね?

それどころか、こいつ…。

「ジュリス、この人悪い人」

「あ?」

ベリクリーデが俺の袖を引っ張って、シュニィの横の男を指差してそう言った。

悪い人…って。

じゃあこいつが、ベリクリーデの言ってた…。

この世に存在しちゃいけないレベルの、悪人?

…ってことは…。

「…お前がシュニィを攫った魔物か?」 

俺は杖に手を伸ばして、そう尋ねた。

すると、そいつは。

「そうだよ」

特に狼狽えることも言い訳もせず、素直に認めた。

…へぇ。

その潔さは称賛に値する。

だが、聖魔騎士団副団長を拉致監禁した、その罪の重さを自覚しているようには見えないな。

ベリクリーデの言い分が正しいなら、この男は並みの魔物ではない。

それなのに何故か、シュニィはその魔物を守るように前に出た。

「大丈夫です、ジュリスさん。マシュリさんは…この方は敵ではありません」

マシュリ?

そんな名前なのか。こいつ。

魔物の割に、立派な名前をもらったもんだ。

「でも、お前を拉致したのはそいつなんだろ?」

「えぇ、そうです。でもマシュリさんは敵ではないんです。お願いだから、杖を向けないでください」

…ふーん。

突然誘拐され、何日にも渡って閉じ込められていたにも関わらず、シュニィはその犯人を庇っている。

つまり、それなりの理由があるってことなんだろう。

…分かったよ。シュニィがそこまで言うなら。

それに、このマシュリって男も、抵抗する意志は全くないようだしな。

「ベリクリーデ、大丈夫だと思うか?」

一応、俺は傍らのベリクリーデにも意見を求めた。

今ばかりは、ベリクリーデの直感を最大限頼りにさせてもらうぞ。

すると。

「?何が?」

「いや、だから…。こいつ、放っておいても大丈夫だと思うか?」

「この悪い人?この人は悪い人だけど、悪いことはしないから大丈夫だよ?」

「…」

…信じるぞ?良いんだな?

拉致監禁してる時点で、充分悪いことしてるはずなんだけどな…。

でも、俺はシュニィの証言と、ベリクリーデの直感を信じるよ。

「分かった。お前のことは、今は不問にしておく。…が」

「…」

「ほとぼりが冷めたら、お前には色々聞きたいことがある。…それで良いな?」

「…そうだね、良いよ」

マシュリという魔物は、素直に頷いた。

よし、じゃあそれまで、しばらくはお預けだな。