――――――…スクルトが、僕に殺される未来を知っていた?

有り得る話ではある。

知っていたのに、スクルトは逃げなかった。

何故?

僕に打ち明けても、逃げ出しても変わらない、『赤』い未来だったから?

でも、本当に最期の瞬間に僕を憎んでいたのなら、その未来が見えた時点で、僕を問い詰めたはずだ。

「お前に殺される未来が見えたんだが、これはどういうことだ」って。

それなのにスクルトは、それをしなかった。

自分の人生の終わりが見えても、逃げることも隠れることも臆することもなく、ただその未来を受け入れた…。

僕に殺されるという未来を。

「思い出してください。あなたの愛した人の最期を。スクルトさんは本当に…あなたを憎んでいたんですか?」

「…それは…」 

僕は再度、記憶を手繰り寄せた。

思い出したら、胸が張り裂けそうになる記憶。

だから蓋をして、鍵をして、決して開けることなくしまい込んだ。

二度と思い出したくない記憶だった。

記憶の鍵を開けて、蓋を開けて中身を引っ張り出す。

それは僕にとって、酷く辛いことだった。

でも、もしシュニィ・ルシェリートの言っていることが正しいのだとしたら。

僕はこれまでずっと、自分の記憶を歪めて…。

あの日…あの日僕は、突然内なる衝動に駆られて、それから意識が遠くなって…。

自分の身体のはずなのに、まるで自分のものじゃないような感覚がして…。

気がついたら、この手でスクルトを…。

「…っ…!」
 
その瞬間を思い出して、僕の目の前に恐ろしい記憶がフラッシュバックした。

まるで今現実に起きていることのように、鮮明に情景が思い浮かぶ。

あのときスクルトは僕の前にいて。

豹変した僕を見ても、少しも驚いた様子はなくて…。

僕の爪がスクルトを引き裂くその瞬間。

スクルトの顔は、憎しみと怒りに歪んでいた…。

…。

…。

…本当に?

「思い出してください。本当は何があったのか、よく思い出すんです」

シュニィ・ルシェリートの声が、頭の中に響いた。

思い出したくない。

思い出したら辛くて堪らなくなるから、必死に記憶に蓋をし続けた…。

…でも。

「あなたの愛する人が、最期にあなたに何を伝えようとしたのか…。分かってあげてください」

と、シュニィ・ルシェリートは言った。

スクルトが…最期に、僕に何を言おうとしたのか。

僕に何を伝えようとしたのか。

…それは…。

「…!」

目の前に、スクルトの最期の瞬間が浮かび上がった。