…ここまで話し終えると、シュニィ・ルシェリートは衝撃の展開に目を見開いていた。

「どうして…いきなりそんなことに…?」

当然の疑問だね。

…正直なところ、それは僕の方が聞きたいよ。

でも、あのとき…僕とスクルトの身に何が起きたのか、ある程度推察することは出来る。

「スクルトが僕を許してくれたものだから、僕は勝手に、自分の罪そのものから許された気になっていた。…その報いを受けたんだよ」

スクルトは僕を許してくれた。

でも、冥界の同胞達は、運命の神様は、僕を許してはくれなかった。

それどころか、勝手に許された気になって贖罪の気持ちを忘れてしまった僕に、天誅を下すかのように。

…僕のこの手で、スクルトを殺させたのだ。

「…自分でもほとんど無意識だった。前触れなく、突然身体が燃えるように熱くなって…」

人間に『変化』していることが出来なくなった。

何かの衝動に突き動かされるかのように、獣の姿に『変化』した。

そして、突然の豹変に狼狽え、逃げる暇も余裕もなかったスクルトに襲い掛かり…。

「…気がついたら、彼女の胴体が繋がってなかった」

僕の…ケルベロスの爪に引き裂かれた、無惨な姿に変わっていた。

僕が正気に戻ったときには、スクルトは既に息絶えていた。

あの傷の深さじゃ、恐らく即死だっただろう。

誰がどう見ても、彼女はもう手遅れだった。

どうすることも出来なかった。

僕は自分の身に何が起きたのか、スクルトの身に何が起きたのか分からなかった。

ただ、背筋が凍るほどの恐怖を感じていた。

自分の意志で豹変した訳じゃなかった。それだけは分かっていた。

でも同時に、スクルトを引き裂いたのもまた自分であることも分かっていた。

僕が殺したのだ。理由は分からないけど。

突然身体が熱くなって、頭の中が湧き立って、本能に突き動かされるままにスクルトを引き裂いた。

身体の中の魔力が暴走して、歯止めが効かなかった。

「…気がついたら、彼女は僕に殺されて死んでいた」

「…何故…?」

と、シュニィ・ルシェリートは尋ねた。

何故なんだろうね。

その理由は、僕にも推し量ることしか出来ない。

誰も答えをくれるほど、優しくはないから。

「スクルトが許して、僕が自分を許しても。それでも僕は許されなかったんだよ」

結局のところ、理由はそれだけだろう。

「どんな気休めを口にしても、僕は結局獣だった。バケモノだったんだ。神は、僕が贖罪を忘れることを許さなかった」

そんな僕に罰を与える為に、僕の手でスクルトを殺させたのだ。

「どうやら僕は、人間の傍に長くは居られないらしい」

スクルトに出会う前は、ずっと一人で生きてきた。

一人で生きている間は、あんな風に豹変したことはなかった。

だけど、スクルトをこの手で引き裂いてしまってから、ようやく気づいた。

僕にかけられた呪いは、この禍々しい異形の姿だけではなかったのだ。