社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

「資料を探しに来たに決まっているでしょう?」

 物陰から姿を表したのは松下部長。私はすぐさま立ち上がり、警戒感を示した。

「部長が? わざわざ?」

「そんな顔しないで、僕だって資料を探しに来るさ。それで? 誰と社内恋愛するんだい? 教えてくれよ、君と僕の間柄じゃないか」

 一見、部長は物腰やわらかく人当たりも良い。そのうえ整った容姿をしている為、朝霧君と女子社員の人気を二分してきた。朝霧君が結婚するとなった今、独身最優良株となったであろう。

 ちなみに『一見』と前置きしたのには理由がある。私は松下部長の瞳の奥を多少なりとも知っているんだ。

 会話の主導権を握られないよう、部長の言葉を訂正していく。

「君と僕の間柄って、新人の頃にお世話になったのを妙な言い方しないで下さい」

「新人教育ーーつまり今の君の礎となるものを僕が教えたとも言えない? うんうん、君みたいな優秀な部下を育てた僕って凄いと思わない?」

 部長はのらりくらり、真意を掴ませない話し方をする。

「私はもう部下じゃありません。そもそも、あなたが追い出したんじゃないですか?」

「あ、まぁ、うん、その件は一旦置いておいてさ」

「話題を反らさないで下さい!」

「反らしてない。一旦置いておくって言ったんだ。どうやら暫く見ないうちに、君は忘れっぽくなったのかな?」