「朝霧は『ねぇかわ』を知ってる?」

「え? あ、はい、詳しくはないですけど名前くらいなら」

 朝霧は僕のプライベートへ踏み込み過ぎたと察知し、不自然な話題変更でも安堵を伺わせた。
 朝霧の飲む缶にも『ねぇかわ』のキャラクター、眼鏡をした白い猫が印刷されている。

「あ、部長は山猫で俺は『ペルシャ』ですね! ペルシャはプライドが高くて集団行動が苦手。でも山猫に憧れてるって書いてありますよ!」

 朝霧は缶にある説明文を読み上げ、山猫とペルシャの関係を僕達に置き換えようとした。
 しかし、僕は岡崎がペルシャだと思う。昔の彼女は眼鏡をかけていたし、昼休みは食事を摂り終えると一人で本を読んでいた。

「そうそう『ねぇかわ』のポップアップストアが駅前にオープンしましたね」

「……ポップアップストア、か」

 やけに『ねぇかわ』の話で盛り上がる朝霧を他所に携帯電話を取り出す。まだ勤務中なので岡崎から連絡は届いていない。

 断言するが、彼女はどう連絡すればいいのか考えあぐね仕事の話をしてくる。アドバイスなど要らないと言った手前、内容は相談ではなく意気込みあたりだろうか。

 そして予想した通りの文面を寄越してきたならーー。

「ポップアップストアね」

 僕はもう一度、呟いた。