朝霧は複雑な面持ちでコーヒーを含む。

「そういえばーーどうするつもりです?」

 話の流れで何を切り出そうとしているのか分かったが、とぼけておく。

「何が?」

「お見合いです。会議中もせっつかれてましたよね? それも取引先の令嬢との縁談」

「あぁ、君まで結婚してしまうから周りが世話をしようとするんだぞ。こちとら独身を謳歌しているのに」

「俺のせいにしないで下さい。あの、言い難いんですが、これは政略結婚っていうのでは? 部長はゆくゆく先方の会社を継ぐみたいな?」

「ーーだとしたら? 僕が寿退社しても幹部候補はいる。それこそ岡崎が筆頭だろう」

「そんな譲られるように役職に就いても岡崎先輩は喜びません。それは部長がよく理解してますよね?」

「根本、見合い話は僕にデメリットはないよ。悲しいかな、いつまでも身を固めないでいると人間性を疑われてしまう。協調性が無いだ、特殊な性癖なんじゃないかとか、忘れられない人がいるとかさ。余計なお世話だ」

 立ち上がり、肩を竦めた。

 縁談を持ち掛けられるのは初めてじゃなく、スマートな辞退の仕方を心得ている。まぁ今回は根回しが周到な分、一度は顔を合わせないといけないだろうが。

 などと巡らせ、指の腹で山猫を撫でている。こうして物を必要以上に弄る時は迷いが生じている印だ。