カフスを外し、タイを緩め深呼吸する。昔のことなどと言いつつ、当時の怒りは消えていない。

「もし先輩が部長の下で仕事し続けていれば、先輩が昇進していたと思います」

「ねぇ、その言い草は岡崎に失礼だよ。僕が面倒を見なかったから彼女は部長職につけなかった訳? 違うよね? 今回、会社が朝霧を評価したが、僕は岡崎の方が力量はあると考えてる。僕個人は岡崎を推していた」

 冷静さを欠き、らしくない応答をしてしまっている。会社の決定を覆したいんじゃない。ただ朝霧の失礼な物言いがやり過ごせない。
 僕は現在進行系で岡崎の資質を誰よりも認めており、側に置いて教育をしたかったのだ。

『第一、私に営業なんて向いてないんですよ! 部長が私を営業部へ行かせて、私はあなたの下で働きたいって言ったのに! それを今更なんだって言うんですか?』

 資料室でそう訴えてた彼女の顔が過り、悔しくなる。

「朝霧、君は一体何が目的でこんなやりとりを吹っ掛けるの?」

「会議中、部長が上の空でしたので岡崎先輩の件なのかなぁと。俺が言える義理じゃないですが、先輩を励まして貰いたいですーーあ、部長のことなので既に行動しているかもしれませんけど?」