「あー、はい、確かにそうですね」

 情けない相槌を打つ朝霧。どうせ思い当たる節があるのだろう。

「先程、岡崎先輩に挨拶したんですが、先輩は皆の前で大きく頭を下げられて。俺としては変わらぬ指導をお願いしたかっただけなんですけど……しまったなぁ、配慮が足りませんでした」

 岡崎梨里の名にぴくり、自分の眉が動いたのが分かった。
 出世争いにおいて勝者がいれば当然敗者もいる。敗北した岡崎は朝霧の配下になると示したのであろう。

「申し訳ありませんでした」

「は? 何故、僕に謝る?」

「岡崎さんは部長の片腕になる人だったと聞いています」

「ーーそれも妻からか? 朝霧夫妻は家庭内でそんな話をする程、会話のネタが無いのかい? もっと楽しい話をするのをお勧めするよ」

 岡崎でなく朝霧を部長にした組織の判断に異論はない。合理的な決定と支持する。

「部長が今の立場になった時はかなり苦労されましたよね? 陰湿な足の引っ張り合い、子供みたいな嫌がらせを沢山されていたと記憶してます。部長はその影響が岡崎先輩に及ばないよう営業部へ行かせたのでは?」

「だから僕の話はどうでもいい! そんな昔のことを言われても覚えてないな」

 思いの外、ボリュームを大きくして伝えてしまう。