連絡先を記入したメモを名刺のように差し出してきて、私は反射的に頂戴する。

「それでも君に容姿を気に入られるのは光栄だな。ありがとう」

 部長はにっこり微笑む。この人は自分がとの角度で笑えば魅力的か、きちんと把握しているのだろう。

「私は部長を見た目で判断しているんじゃありません!」

「うん、だから喜んでいる。君は僕を異性として接しない。社内恋愛するにあたって先ずは男であるのを意識させないと」

「っ、なっ!」

 いけない、このまま社内恋愛をする流れになっている。私はルックスではなく仕事面を尊敬すると言ったまで。それに部長を異性とみなさないのは、部長自身がそうさせたのだ。
 言い返したい。けれど今はなにより茶番を阻止せねばーー。

「ニャア」

 部長が鳴いた。小首を傾げ、甘えるみたいに。

「……」

「どう? 君好みの猫になれた?」

 喉まで出かけた言葉を消失させるほど破壊力のある仕草を前にし、私は開いた口が塞がらない。

「勤務中こんなところで二人きりで過ごしたんだ。もはや社内恋愛は始まっていると言っていいんじゃないかな?」

 二人きりで過ごしたというより、二人で資料室の掃除をしただけ。仕事をサボっていないかと言われれば、すべき作業は他にある訳だけど。

 特に部長は私をからかう暇など無いはず。