和仁さんは、私の目を見てはっきりと言った。


「君が生活しやすいように環境の配慮はする。
だが、俺はもう誰も愛さない。君とは書類上だけの夫婦だ」


 私の目を見てそう言った彼のことを、場違いにもなんて誠実な人だろうと思った。

 取り繕うことなくはっきりそう言ってくれるなら、こちらも余計な期待をしなくて良い。
 偽りの愛の言葉を並べられるより、ずっと誠実だと思った。


「心得ました」


 私はニコリと微笑んだ。
 和仁さんは一瞬面食らったような表情をしたけど、すぐにいつもの仏頂面に戻った。

 こうして私たちは書類上だけの夫婦になった。
 愛のない政略結婚、それも極道に嫁ぐことになるなんて思ってもみなかった。

 それでもこれは私自身が選んだ人生だから。


「ジェシカ、生きていれば嫌なことも辛いことも、思い通りにいかないこともたくさんある。
でも、自分の進む道に誇りを持ちなさい。それがどんな道だろうと、私はジェシカの味方でいるから」


 亡くなった母の言葉を思い出していた。

 マムはきっと、私が決めた道を応援してくれるはず。
 天国から見守っていてね。

 私は私なりの幸せの在り方を見つけるわ。
 極道の妻になったからって、不幸になるとは限らないもの。

 自分の幸せは自分で決める。
 マムの言葉を胸に、私は新たな生活を始めることになった。