父は現状を憂い、一人バーでヤケ酒していた時ある男性に声をかけられた。
 泥酔した父はその場の勢いで全部喋り、会社がなくなるかもしれないと見ず知らずの男性に愚痴ってしまったらしい。

 すると男性は、こんなことを言い出した。

「私ならそのスパイから全てを取り戻せるかもしれない」

 かなり酔っていた父は、もしそんなことができたらお願いしたい、どんなお礼でもすると軽口を叩いてしまった。

 その翌日、ライバル企業が技術を盗作していたというタレコミが流された。動かぬ証拠が次々と流出し、父の会社は倒産を免れたのだそう。

 やっぱりドラマみたいだわ、と私はもはやワクワクしてすらいた。
 これから告げられる事実も知らずに。


「早い話が、本当にその人が助けてくれたんだ。でもその人は、極道の組長だった」

「極道ですって!?」


 静かに話を聞いていた母が思わず声をあげる。
 父はますます青ざめていた。


「しかも関東でも一、二を争う巨大勢力、桜花組の組長で……」

「どうして極道の組長があなたに手を貸したの?」

「僕も酔っていてちゃんと覚えてないんだが……」


 その組長さんは、父にこんな質問をしたという。「子どもはいるか?」と。
 「娘が二人います」と答えた父に、「娘の年齢は?」と聞かれ、「上の子が24で下の子はまだ大学生」だと答えた。