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「何、この学校。広すぎるよー。職員室なんて一生たどり着ける気がしない。どうしよう……」



 転校してきたばかりの心細さも相まって涙が込み上げてきたところを、「あれ? 初めて見る女の子がいる。どうしたの? 涙目になって。はい、これハンカチ」そう言って爽やかな香りがするハンカチを優しく私の目元に当ててくれた。



「わ! すみません。メイクで汚しちゃったかも。洗ってお返しします」



「いいよ、いいよ。気にしないで。泣いてる女の子を放っておくような教育はされてないの。それより、どうして泣いてたの? 何か困ってる?」



「実は、私今日からこの学校に転校してきたんですけど。迷子になっちゃて。お恥ずかしい」そう正直に白状すると、「なるほど、転校生か。この学校めちゃくちゃ広いもんね。迷子になるのも仕方ないよ。どこに案内すればいい? 職員室かな?」



「はい。お願いできますか?」



「了解、任せて」そう言って私の手をぎゅっと握って先導しようとしてくれる男の子に、最初は驚いた。



 思わず「え?」って声が出ちゃったくらい。



 だけど、私がぎょっとしたのをすぐに悟って「あ、ごめん。知らない男にいきなり手握られたら嫌だよね。俺、父親がイギリス人のダブルでさ。家の中でのボディタッチが外でも出ちゃってパーソナルスペースバグってるってよく言われるんだよね。本当にごめん」



 男の子はすごく丁寧に目を合わせて謝罪をしてくれた。確かに日本人離れした綺麗な外見だと思ったけどイギリス人とのダブルだったんだ。誠実そうだし、英国紳士の血が流れているのも頷ける。



「いや、その嫌だとかでは全然ないんですけど、びっくりしちゃって」しどろもどろにそう言う私の顔は、体温が上昇したみたいにあつい。



「りんごみたいに赤くなってる。ふふっ可愛いね。俺は1年C組の高瀬帷っていうんだけど、君は何ちゃん?」



「あ、私の転校するクラスも1年C組なんです。奇遇ですね。私は野宮かれんっていいます」



「そうなんだ! これからよろしくね? じゃあ職員室に向かいますか。お手をどうぞ? お嬢さん」そう言って手を差し出してくれる王子様みたいな仕草に私は一瞬で恋に落ちた。



 それからも、帷くんは転校生の私を事あるごとにすごく気に掛けてくれた。



「かれんちゃん、良かったら校内案内しようか?」



「お昼一緒に食べよう?」



「帰り道分かる? 慣れるまで一緒に帰ろう」



「かれんちゃん、友達出来た?」



 帷くんのおかげで野いちご学園高等部に慣れることが出来た、と言っても過言ではない。今では親友と呼べる紗菜ちゃんと仲良くなれたのも、紗菜ちゃんの彼氏の吉崎くんと帷くんも親友同士で、帷くんを介して知り合えたからだし。


 2年生になっても同じクラスになれた時は心底嬉しかった。



 そんな帷くんから「かれんちゃん達、修学旅行一緒の班にならない?」って誘われたのは奇跡かもしれない。だから、修学旅行が楽しみで浮かれちゃうのも許してほしい。