私が通う野いちご学園高等部にも修学旅行の時期がやって来た。今年の行き先は二泊三日で京都だ。



「ねぇねぇ、紗菜(さな)ちゃん。京都っていったらやっぱりお抹茶とか八つ橋かなぁ? お寺も楽しみだよね」行きの新幹線の中でガイドブックを開きながら声を弾ませていると、隣の座席に座っているお友達の紗菜ちゃんは、はあっと深いため息をついた。



「もう。かれんってば。さっきからテンション高すぎ。そんなんじゃ京都着く前に体力使い切って疲れちゃうよ?」そう言って黒髪のロングヘアを耳にかける仕草が、なんとも高校生離れしていて色っぽい。



「だって。すっごく楽しみにしてたんだもん、この修学旅行」そうむくれる私に、「はい、はい。そうだよね、かれんは『大好き』な高瀬(たかせ)と同じ班になれて浮かれてるんだもんね」



「もう! 大きな声で意地悪な言い方しないでよ。それに、(とばり)くんのこと好きな女の子なんて、同じクラスどころか学校中にたっくさんいるし」あ、何だか自分で言ってて悲しくなってきちゃった。



 分かりやすく落ち込む私を励ますように、紗菜ちゃんは「大抵の女子は目の保養とかミーハー心で騒いでるだけだけど、かれんのはガチ恋でしょ? 高瀬ってチャラいからガチ恋勢は少なそうだし、かれん見た目は可愛いんだから案外告白したらあっさりいけそうだけどね」と言ってくれる。



 ん? 聞き捨てならない言葉が。



「帷くんはチャラくなんてないよ! ただ、女の子にとびっきり優しいだけ!」



「それをチャラいって言うんだよ」って言って私の額にデコピンをしてくる紗菜ちゃん。



 さっきから話題に出ている帷くんとは、同じクラスの高瀬帷(たかせとばり)くんのことだ。今をときめく売れっ子モデルさんで、最近は俳優としてもひっぱりだこ。



 高い身長に長い手足。天然の色素の薄いブロンドヘアに、空や海を彷彿とさせるような透き通った碧い瞳。その整った外見とフレンドリーな性格で学園中の人気者なのだ。



 そんな人気者の帷くんに、私、野宮(のみや)かれんは絶賛片想いしている。きっかけはちょうど一年前。私は一年前に、野いちご学園高等部に転校してきたんだけれど、野いちご学園は初等部から大学部まであるとてつもなく大きな学校で、転校初日の私は見事に迷子になった。