……嬉しい。
想いが、ちゃんと通じた。

1ヶ月程前、告げられた病気は私の人生を一遍させた。

辛い治療、失った髪の毛。
なにもかも初めてで、どうしようもない憤りを感じたこともあった。

でも、彼が……五十嵐先生がいてくれるなら、もう大丈夫。
絶対、乗り越えられる。


「なんか、緊張した」

「え? 五十嵐先生がですか?」

「うん。振られたらどうしようかと思ってた」


ニット帽の上から、私の頭を優しく撫でながらそう言った彼。

これは絶対嘘だ。全然、そんな風には見えないんだもの。
さっきも、余裕の表情を見せていたしね。


「葵。キス……したらダメか?」

「えぇっ!?」

「いや、だから……嫌なら別にいいけど」


チラっと彼の顔を見てみると、少しだけ赤く染まった頬。

なんだか、ずるいなぁ。
普段、仏頂面して病院の廊下を歩いているクセに。

そんな表情で「キスしていいか」なんて聞かれたら、断れないじゃない。


「……大丈夫、です」


そう言った私の頬に、五十嵐先生の手が触れる。

ゆっくりと彼の顔が近付いて来て、唇に生温かいものが触れた。
そっと触れるだけの、優しいキス。


私……生きたいよ。
彼と一緒に、長生きしたい。

彼に触れて、改めて。そんな思いが、強く沸き上がったーー。