ましてや、幼い頃から長い髪を保ち続けていた私。
母がよく当時人気だったアニメの主人公と同じように結んでくれたり、成人式の日もすべて地毛でアレンジしたり。

「次は結婚式ね。楽しみよ」と、いつも私の髪に触れながらそう言ってくれていた。

その髪も、すべて抜けてなくなってしまう可能性があるのだ。


「お母さん……大丈夫。髪の毛なんて、病気を治してまた伸ばせばいいことよ」

「葵っ……」


涙を堪えきれない母の背中を擦りながら、ぎゅっと唇を嚙みしめる。

私だって、ショックなわけじゃない。
ケアは大変だけれど、長い髪は自分でも自慢だった。

けれど、今はそんなことを言っている場合ではないのだ。


「五十嵐先生。私、頑張りますから。病気なんかに、負けません」

「あぁ。俺たちも全力を尽くす」

「五十嵐先生……どうか、どうか。葵のことをよろしくお願いします」


深々と頭を下げる両親に続いて、私も深くお辞儀をした。

大丈夫。私ならできる。
そう、自分のことを信じてるから。

私は、独りぼっちなんかじゃない。ここにいる、みんなが支えてくれている。


「では、明日より化学療法を開始します」


一通り話が終り、両親は帰宅してしまった。

そして。ここで初めて、五十嵐先生が患者さんに人気の理由がわかったような気がしたーー。